
2023.10.23
(H30-⑵)
株式会社Yは、株主総会において、「株主の相続人に対する株主売渡請求の件」として、Yの株主が死亡した際に保有していた株式の売渡しをその相続人に対して請求することを可決承認したところ、Yの株主であるXが、本件決議が法令の定める決議要件を満たさないとして、同決議の取消しを求めて提訴した。
2 争点2(整備法(筆者注:会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律。以下同じ)14条3項が規定する「総株主」「当該株主」に、当該決議との関係で議決権行使を制限された株主が含まれるか)について
(中略)
⑶ 「当該株主の議決権の4分の3以上に当たる多数」の意義について
(中略)
イ まず、①会社法297条は、株主による招集の請求に関し、同条1項記載の「総株主の議決権の100分の3以上」との要件について、同条3項において、「第1項の株主総会の目的である事項について議決権を行使することができない株主が有する議決権の数は、同項の総株主の議決権の数に算入しない」と定め、②同法303条は、株主提案権に関し、同条2項記載の「総株主の議決権の100分の1以上の議決権」の要件について、同条4項において、第2項の株主総会の目的である事項について議決権を行使することができない株主が有する議決権の数は、同項の総株主の議決権の数に算入しない。」と定めるなど、会社法の規定上、総株主の議決権に、当該議案との関係で議決権を行使することができない株主が有する議決権を算入しない場合には、その旨を明文で定めている。
ウ また、特例有限会社ではない株式会社における株式売渡し請求をするための特別決議の決議要件について、会社法309条2項柱書は、「当該株主総会において議決権を行使することのできる株主の議決権の過半数(3分の1以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し」と規定し、当該決議との関係で議決権を行使することができない株主の議決権を算入しないことを明らかにしている。
しかしながら、同項の「当該株主総会において議決権を行使することができる株主」という文言について、整備法14条3項は、これを「総株主」と読み替えると規定している。
エ さらに、旧有限会社方48条2項は、有限会社における持分の売渡し請求をするための特別決議の決議要件について、「議決権ヲ行使スルコトヲ得サル社員」は総社員に算入せず、「其ノ行使スルコトヲ得サル議決権」は総社員の議決権の数に算入しない旨規定していたが、整備法は、これを引き継いでいない。
オ 上記イないしエのような会社法及び整備法の規定ぶり及び改正経過を踏まえれば、整備法14条3項にある「総株主」について、当該決議との関係で議決権行使を制限された株主が含まれるものとして規定されていることが明らかである。(中略)
⑸ したがって、本決議は、総株主(当該株主)の議決権の数6000個のうち、本件決議に賛成した議決権は2520個にとどまるから、「当該株主の議決権の4分の3以上に当たる多数」という特別決議の成立要件(多数決要件)を満たさないことが明らかである。