
2023.10.20
(H31-⑶)
A及びBは、Zの株主であったところ、C、D及びZに対し、その株式(以下「本件株式」という)を譲渡した(以下、これらの譲渡を併せて「本件各株式譲渡」という)。
後に、A及びBが本件各株式譲渡が無効であるなどと主張したのに対し、C、D及びZは、本件各株式譲渡は有効である旨反論し、第1事件から第4事件までの訴えが提起された。
本件は、かかる4つの事件が併合審理された事案である。
①Aは、Cに対して本件株式5474株、Dに対して本件株式357株を、Zに対して本件株式6096株を譲渡する旨の意思表示を行ったが、これらは錯誤により無効であり、または詐欺によるものであるから取り消した等と主張して、C及びD(以下、両者を併せて「1審被告ら」という)に対し、Aが本件株式1万1900株を有する株主であることの確認を求めた。
②Bが、Cに対して本件株式966株、Dに対して本件株式63株を、Zに対して本件株式1071株を譲渡する旨の意思表示を行ったが、これらは錯誤により無効であり、または詐欺によるものであるから取り消した等と主張して、1審被告らに対し、Bが本件株式2100株を有する株主であることの確認を求めた。
①Cが、Aから本件株式5474株を、Bから本件株式966株を、Zから本件株式5600株を譲り受けたと主張して、A及びB(以下、両者を併せて「1審原告ら」という)に対し、Cが本件株式1万2040株を有する株主であることの確認を求めた。
②Dが、Aから本件株式357株を、Bから本件株式63株を、Zから本件株式140株を譲り受けたと主張して、1審原告らに対し、Dが本件株式560株を有する株主であることの確認を求めた。
Zが、Aから本件株式6096株を、Bから本件株式1071株を譲り受けたと主張して、1審原告らに対し、上記株式合計7140株のうち、上記各株式譲渡の後、1審被告らに対して譲渡した5740株を除く本件株式1400株を保有することの確認を求めた。
1審被告らが、Zに対し、平成27年3月30日にZの株主総会で為されたA及びFを取締役に、Gを監査役に選任する旨の決議(以下、両決議を併せて「本件各株主総会決議」という)がいずれも不存在であることの確認を求めた。
第1審判決は、第1事件の請求を棄却、第2事件・第3事件の請求を認容したうえ、第4事件については、株主総会決議不存在確認に係る訴えの利益が存在しないとして、これを却下した。
これに対し、第1乃至第3事件に関する判断を不服としてXが、第4事件に関する判決を不服としてYがそれぞれ控訴したのが本件である。
争点⑶に対する当裁判所の判断は、原判決を、次の⑴のとおり補正し、また、当審における当事者の補充主張に対する判断を、次の⑵のとおり付加するほかは、原判決の「事実及び理由」中、「第3 当裁判所の判断」の「2」ないし「5」に記載のとおりであるから、これを引用する。
⑴ 原判決の補正
(中略)
⑵ 当審における当事者の補充主張に対する判断
ア 1審原告らは、譲渡制限会社である1審原告会社では、事前に、譲渡価格等を顧問税理士等により厳密に試算し、取締役会を招集・開催し、株主及び取締役の全員と顧問税理士等が一同に会するなどして、株式の譲渡について取締役会で決議を行う必要があると主張するが、それ自体独自の見解であって、1審原告らの上記主張は採用することができない。
イ 1審原告らは、1審被告らは、1審原告会社に対する株主であることの確認を求める訴えを取り下げているから、今後一切、会社に対する関係では株主であると認められることはなく、このような1審被告らを1審原告会社の株主であると認めることは違法である旨主張する。しかし、上記訴えの取下げにより、そのような効果は生じないから、1審原告らの上記主張は、その前提を欠き、採用することができない。
ウ 1審原告らは、Bは、株式譲渡の話をされたことがなく、書類を見たことも署名押印をしたこともない、Aも、株式譲渡証書に記載された事実の認識はないとして、原判決の事実認定を非難する。しかし、上記引用に係る原判決説示のとおり、Bは、本件株式の管理処分をAに包括的に委ねていたと認められるし、また、Aに、株式譲渡証書に記載された事実の認識がなかったとは認められない。
さらに、1審原告らは、本件株式の譲渡価格の決定は適正でなかったとして、錯誤無効及び詐欺取消しを主張するが、上記引用に係る原判決説示のとおり、本件各株式譲渡の経緯を踏まえても、本件証拠関係の下では、1審原告らの錯誤や1審被告らの欺罔行為は認められない。
1審原告らは、1審被告らは、このままでは家族に迷惑をかけてしまうという強迫観念にかられた高齢のAに、本件株式の客観的価値を知らせずに、書類への署名押印を迫ったとか、何も知らない1審原告Bの署名押印をも取得して、会社の資産を利用し創業者夫婦から会社の資産を全部取得したなどとして、1審被告らの目的も手段も社会的に不相当である旨主張する。
しかし、以上説示したところに照らしても、1審被告らは、Aに、本件株式の客観的価値を知らせずに、書類への署名押印を迫ったとか、何も知らない1審原告Bの署名押印をも取得したとの事実は認められない。そして、他に、1審原告ら主張の公序良俗違反を裏付ける事情を認めるに足りる証拠もないから、1審原告らの公序良俗違反の主張は採用することができない。
(中略)、本件各株主総会決議により、A及びFが取締役に、Gが監査役にそれぞれ選任されたものとされており、本件各株主総会決議を前提に構成された同日の3月30日取締役会の決議により、Iが代表取締役に選任され、また、本件各株主総会決議を前提に構成された4月6日取締役会の決議により、1審被告Cが代表取締役を解任されているものの、3月30日取締役会及び4月6日取締役会の上記各決議の効力については、当事者間に争いがあり、瑕疵が継続していると認められる。
したがって、本件各株主総会決議の不存在確認を求める訴えの利益は存するものと認定するのが相当である。