
2023.10.18
(R3-⑴)
X₁及びX₂は、いずれもYの株主である株式会社であるが、Yは、定時株主総会(以下「本件株主総会」という)の開催に際し、X₁代表者、及び、A(X₂代表者から議決権行使の委任を受けた弁護士)について、次の理由から本件株主総会への出席を認めなかった。
【X₁代表者について】
議決権行使書兼出席票に押印されたX₁代表者印の印影が、Yに届けられていたX₁の印影と一致しないこと。
なお、X₁は、従前Yの株主であったB社を吸収合併したことでYの株主になったという経緯があったところ、Yは、提出書類に不足があることを理由に、X₁の届出印の変更手続が完了していないものと扱っていた。
【Aについて】
Aの持参した議決権行使書兼出席票に押印されたX₂代表者印の印影が、Yに届けられていたX₂の印影と一致しないこと。
なお、X₂は、商号、代表社印を変更する手続を行っていたところ、Yから時系列に沿って変更届を提出するよう求められ、こうした届出が遅れたことについて遅延理由書を提出するよう指示を受けていた。Yは、遅延理由書が未提出であることを理由に、X₂の届出印の変更手続が完了していないものと扱っていた。
こうした中、Yは、本件株主総会において、①第51期計算書類及びこれらの附属明細書を承認する決議、②取締役4名を選任する決議、及び③監査役1名を選任する決議(以下、これらの決議を併せて「本件決議株主総会決議」という)を行った。
そこで、X₁及びX₂は、札幌地方裁判所に対し、本件株主総会決議の取消を求めるとともに、X₁らが有するY株式について、X₁らが株主総会において議決権行使書を提示した場合には、印影に不一致があること、変更届遅延理由書が未提出であることを理由に総会への入場を拒否してはならないとの判決を求め、訴えを提起した。
一審判決は、いずれの請求も認めたため、Yがこれを不服として控訴した。
「株主総会の受付においては、受付に出頭した者が株主であることを確認する必要があるが、会社が送付した議決権行使書等を提示した者を株主として入場させる取扱いが比較的多いとされている(中略)。しかし、出頭者と株主との同一性確認の方法が法定されているわけではなく、議決権行使書等による確認の方法は飽くまで事務の効率化の観点からの1つの手段にすぎず、株主権の重要性に鑑みれば、議決権行使書の提示以外の方法により株主本人であることを立証したにもかかわらず、株主総会への入場を拒絶した場合には、不当な出席の拒絶になり得るというべきである。
本件において、Y代表者はX₁代表者と面識を有しており、本件株主総会に出頭してきたX₁代表者が、控訴人の株主として議決権行使をし得る立場にあることが明らかに認められる状況であった。加えて、本件の場合、控訴人は、書面による議決権行使では問題視していない届出印の印影と議決権行使書兼出席票に顕出されている印影の不一致を理由にX₁代表者の株主総会への入場を拒絶したというのであるから、決議方法に法令(会社法308条1項)違反があったといわざるを得ない。
したがって、本件決議には、X₁代表者の株主総会への入場拒絶という決議方法の法令(会社法308条1項)違反の取消事由があることになる。」
(中略)
「本件決議には、X₁代表者の株主総会への入場拒絶という決議方法の法令(会社法308条1項)違反の取消事由があるが、被控訴人らは、X₂の代理人であるA弁護士の本件株主総会への入場を拒絶した点も取消事由に当たると主張するので、以下検討する。
控訴人の定款18条は、前述のとおり、控訴人の株主が議決権を代理行使させることができる者を控訴人の株主に限定している。このような定めは、株主総会が株主以外の第三者により攪乱されるのを防止し、株式会社の利益を保護しようとする趣旨に出たものと認められ、合理的な理由による相当程度の制限として有効であると考えられる(最高裁昭和43年11月1日第2小法廷判決・民集22巻12号2402頁参照)。
しかしながら、控訴人代表者は、X₂の委任状を持参したX₂の代理人であるA弁護士と面識があり、株主総会の受付において、同人が弁護士であり株主総会攪乱のおそれがないことを容易に判断できたというべきである。議決権行使の重要性に鑑みると、本件のように代理人が弁護士である等株主以外の第三者により攪乱されるおそれが全くないような場合であって、株主総会入場の際にそれが容易に判断できるときであれば、株式会社の負担も大きくなく、株主ではない代理人による議決権行使を許さない理由はない。それにもかかわらず、控訴人は、届出印の印影と本件委任状に顕出されている印影の不一致を理由にX₂代理人であるA弁護士の株主総会への入場を拒絶したというのであるから、決議方法に法令(会社法310条1項)違反があったといわざるを得ない。
したがって、本件決議には、X₂の代理人であるA弁護士の株主総会への入場拒絶という決議方法の法令(会社法310条1項)違反の取消事由があることになる。」
本判決は、原判決の認定を全面的に容認しているため、以下、原判決の判決文を引用する。
「Yは、X₁らの本件株主総会への出席を拒否し、議決権行使を妨害したということができる。
また、Yが、X₁代表者やA弁護士がX₂から委任を受けていることを認識していたにもかかわらず、必要性のない変更届の提出を要求し、本件委任状やX₁の議決権行使書兼出席票に顕出されたX₁らの最新の代表印の印影と原告らの届出印の印影との同一性を強硬に求め、本件株主総会の受付前にも、変更届のほか根拠の不明確な遅延理由書の提出を要求しているとの対応に照らせば、今後も、X₁らが有効な議決権行使書を提出した場合でも、被告が、提示書類に顕出されたX₁らの最新の代表印の印影とX₁らの届出印の印影に不一致があること、Yの定款13条に基づく変更届出が未提出であること、変更届遅延理由書が未提出であることを理由として、X₁らがYの株主総会の会場に入場してその議決権行使をすることを妨げる高度の蓋然性が認められる。」
「したがって、X₁らは、Yに対し、株主権による妨害予防請求権に基づき、株主総会への出席の妨害禁止を求めることができる。」