
2023.10.20
(H31-⑸)
Yの株主であるBは、裁判所の許可(以下「本件招集許可」という)を得て、Yの株主総会を招集し(以下「平成27年総会」という)、Yの株主であるAから委任を受けた(以下「本件委任1」という)代理人として、また、Yの株主であるZ₂の代表者として、同総会に出席した。同総会において、Bは、自らを議長に選任した上で議事を進行し、全ての議案が可決されたところ(以下「平成27年総会決議」という)、これらの決議には、Xを取締役から解任することも含まれていた。その後、BがYの代表者取締役に選任された(以下「本件選任」という)。
その後、BはYの代表者として平成28年の株主総会を招集し(以下「平成28年総会」という)、株主本人として、また、Aから委任を受けた(以下「本件委任2」という)代理人として、同総会に出席した。同総会においては、招集通知に記載された全ての議案が可決された(以下「平成28年総会決議」という)。
こうした中、Xが、次の通りの理由から、平成27年総会決議及び平成28年総会決議の効力を争って提訴した。
①平成27年総会は定足数を満たしておらず、決議の方法が法令又は定款に違反するため、平成27年総会決議の取消を求める。
②Z₂を出席者として取り扱うことは決議の方法として著しく不公正であるとして、平成27年総会決議の取消を求める。
③平成28年総会は、招集権限を有しない者が招集したものであり、平成28年総会決議が存在しないことの確認を求め、予備的に、同決議は定足数を満たしていない状態で為されたことから、決議の方法が法令又は定款に違反するため、取消を求める。
原審は、Xの請求をいずれも棄却したため、Xがこれを不服として控訴した。
1 当裁判所は、原審と同様、Xの請求をいずれも棄却すべきであると判断する。その理由は、原判決17頁1行目の「(乙4の2)」を「(乙4の1及び2)」と改め、後記2において当審における当事者の主張に対する判断を加えるほかは、原判決の「事実及び理由」の「第3 当裁判所の判断」1ないし6(中略)に記載のとおりであるから、これを引用する。
2 当審における当事者の主張に対する判断
⑴ 証人Cの証言の信用性について
ア Xは、Bが「エイペジル」や「アリセプト」という認知症の薬を服用していることを知らなかったとの証人Cの証言は、平成28年5月頃、韓国のマスコミに対し、Cが代表者であるe社が、平成22年からBが認知症の治療薬を服用していたことを公表していることと矛盾するなどと主張する。
そこで検討するに、証人Cは、原審における証人尋問において、Bが「アリセプト」等を服用していることを知らなかったとの証言をしている。一方、証拠(中略)によれば、韓国の報道機関が、平成28年6月29日、Bが5、6年前から「アリセプト」を服用していた旨の情報の出所について、○○グループがe社であると確認した旨の報道をしたことが認められる。
しかしながら、証人Cの前記証言は、Bの「アリセプト」服用を知らなかったとする時期について必ずしも明確に述べるものではない上、仮に、前記報道のとおり、e社がBの「アリセプト」服用の事実を明らかにしたとしても、Cがこれに関与していたことを裏付ける証拠は存しないから、証人Cの証言が、平成28年になされた前記の報道内容と矛盾するとまでいうことはできない。加えて、証人Cの証言が証拠(甲27)からうかがわれるCが出版しようとした評伝本の記載と矛盾するとも認められない。
他に、「アリセプト」等の服用について、証人Cの証言に矛盾があると認めることはできない。
イ Xは、本件株式譲渡に関する証人Cの証言は、本件株式譲渡書(中略)の原案の作成者について曖昧かつ不明確な証言をし、合理的な理由なく変遷していることから信用し得ない旨主張する。
確かに、証人Cは、本件株式譲渡書の原案の作成者について、主尋問においては自らが用意したと述べていたのに対し、反対尋問においては、Y代理人弁護士が用意したと述べ、裁判長からの補充尋問においては、はっきり覚えていないと述べるなど、証言内容に変遷ないしは曖昧さが見られるという余地もある。
しかしながら、前記証言は、本件株式譲渡書の原案をC側で作成したとの趣旨を述べる点で一貫しているということもできるのであり、本件株式譲渡の契約書が真正に成立したこと自体には争いがないことをも考慮すると、その原案の作成者がCかY代理人弁護士かはそれほど重要な事実ということもできないものであるから、この点についての記憶が明確でないことをもって、直ちに証人Cの証言が信用し得ないとまでいうことはできない。
⑵ 証人Hの証言等について
ア Xは、原判決が、証人Cの証言及びCの陳述書に基づき、Bにおいて、b社の取締役会によって代表取締役から解職されたことに激怒したとの事実を認定していることについて、このような事実認定は、証人Hの証言に反し、誤っている旨主張する。
確かに、証人Hは、Bから、b社の代表取締役から解職されたことについての不満を聞いたことはない旨の証言をしている。
しかしながら、証人Hの証言を前提としても、証人Hは、Cが、平成27年7月28日、Bに対して解職の事実を伝えた際、その場にHが立ち会っていたと述べるものではなく、また、証拠(中略)によっても、Hが平成27年1月からBの専担秘書室専務に、次いで同年8月から秘書室長になり、およそ1年間、Bを補佐していたというにとどまるものであり、そのようなHの立場をも考慮すると、証人Hの証言を前提としても、証人Cの証言及びCの陳述書が証人Hの証言と矛盾するとまではいえない。
仮に、実質的に矛盾する面があるとしても、証人Hの証言は、Bが解職に対して不満を述べなかった理由を述べておらず、Bが解職に納得してこれを受け容れていたか否かについても何ら述べるものではないから、証人Hが、この点についての事実関係を正確に理解しているか否かに疑問の余地があり、証人Cの証言を否定し得る程に信用性が高いということもできない。
よって、この点の原判決の前記認定が誤っているということはできない。
イ また、Xは、証人Hの証言に基づいて、Bが、本件株式譲渡、本件委任1及び本件委任2の意味が分からずにしたとの認定がされるべきである旨主張する。
しかしながら、Hは、本件株式譲渡、本件委任1及び本件委任2に立ち会っていたことはなく、これらがどのような経緯でなされたものかについて見聞しているものでもなく、本件株式譲渡、本件委任1及び本件委任2の当時のBの判断能力について具体的な事実を述べるものでもない。
この点、証人Hは、Bが、平成27年8月頃から判断能力に問題があるようになり、同じことを何度も尋ねたり、知人やBの個人財産の管理をしている社長の名前を覚えていなかったりということがあったとの証言をしている。
しかしながら、Bにある程度の記憶力の減退があったことは原判決も判示するとおりであり(中略)、Bが同じことを何度も尋ねるなどのことがあったとしても、そのことから直ちにBが当時意思能力を欠く状態にあったとまで認めることはできない。そうすると、証人Hの前記証言は根拠のないものであって、これをもって、本件株式譲渡、本件委任1及び本件委任2の当時のBの判断能力がなかったことが根拠付けられるということはできない。
⑶ Bの意思能力について
ア (ア)Xは、Bが平成22年頃からアルツハイマー型認知症に罹患していたと主張する。
しかしながら、Bがアルツハイマー型認知症に罹患していたとの医師ないし医療機関の診断書は何ら存しない。
もっとも、(中略)、Bは、平成27年9月当時、「アリセプト」等の認知症の治療薬を服用していたと認められるが、そのような薬が処方された経緯、診断の有無及び内容等については何ら明らかではなく、Yにおいて、Bが認知症の予防のためにこれらを服用していたものであると主張し、証人Cもこれに沿う証言をしているところ、これを覆すに足りる証拠もないことをも考慮すると、Bが「アリセプト」等の認知症の治療薬を服用していたことをもって、直ちにアルツハイマー型認知症に罹患していたと認めることはできない。
(イ)Xは、Bには、記憶障害及び見当障害といったアルツハイマー型認知症の中核症状が認められるほか、徘徊、物盗られ妄想及び暴言・社会的に不適切な言動といった周辺症状も見られることからも、アルツハイマー型認知症に罹患していたと認められる旨主張する。
確かに、(中略)、Bは、平成27年7月27日のF社長との面談の際、同じ質問を繰り返しているなど、記憶が曖昧なことがあったと認められる。(中略)
しかしながら、平成27年7月当時、Bが93歳であったことをも考慮すると、前記のような記憶の曖昧さが、病的な記憶障害ないし見当障害によるものか否か必ずしも明らかではないし、前記のような記憶の曖昧さがあったことをもって、Bがアルツハイマー型認知症に罹患していたとの医師の診断書のない本件においては、直ちにアルツハイマー型認知症に罹患していたことが裏付けられるということもできない。
イ Xは、Bがアルツハイマー型認知症に罹患していたことを前提として、本件株式譲渡、本件委任1及び本件委任2について、Bが、その形式的な意味だけではなく、前提事情や実質的な意味を理解する能力はなかった旨主張する。
しかしながら、前記のとおり、Bがアルツハイマー型認知症に罹患していたと認めるに足りる証拠はないから、本件株式譲渡、本件委任1及び本件委任2について、その意味を理解する能力がなかったということはできない。
ウ Xは、Bが、限定後見の審判ではなく、実質的には、精神的制約により事務処理能力が持続的に欠如した者に対してなされる成年後見の審判を受けたも同然である旨主張するが、韓国における限定後見制度については原判決(中略)において判示するとおりであり、原則として行為能力を有するものとされているから、Bが限定後見の審判を受けたにもかかわらず、意思能力がなかったとまでいうことはできない。
また、限定後見によって、Bが限定後見人の同意を要するとされた行為は、財産の管理、身上の保護、訴訟行為など広範にわたるものではあるが(中略)、飽くまで限定後見人の同意を要するとされているものであって、意思能力を欠く者に対する制限が課されている、ないしはそれと同視し得るとまでいうことはできない。
この点、Xは、原判決は、限定後見制度の解釈を誤っているとして、当審において「韓国の2013年7月1日施行された家族法の概要(2・完)」と題する文献(中略)を提出する。
前記文献には、被限定後見人は原則的に行為能力があるが、限定後見人に代理権を授与する審判がなされたときは、行為能力が制限される旨の記載があるが、このような文献によっても、飽くまで被限定後見人の行為能力が制限されるにとどまると解されていると認められるのであり、意思能力を欠くに至ると解されていると認めることはできないから、前記文献の記載をもって、原審の判断が誤っているということはできない。
よって、この点のXの主張も理由がない。
(参考 第1審判決)
2 争点1(本案前の争点)について
⑴ 取締役を選任する先の株主総会の決議が存在するものとはいえない場合、その総会で選任されたと称する取締役によって構成される取締役会の招集決定に基づき当該取締役会で選任された代表取締役が招集した後の株主総会において新たに取締役を選任する決議がされたとしても、その決議は、いわゆる全員出席総会においてされたなどの特段の事情がない限り、法律上存在しないものといわざるを得ず、この瑕疵が継続する限り、以後の株主総会において新たに取締役を選任することはできない(最高裁昭和60年(オ)第1529号平成2年4月17日第三小法廷判決・民集44巻3号526頁)。そうすると、上記のような事情の下で瑕疵が継続すると主張されている場合においては、後行決議の存否を決するためには先行決議の存否が先決問題となり、その判断をすることが不可欠である。先行決議と後行決議がこのような関係にある場合において、先行決議の不存在確認を求める訴えに後行決議の不存在確認を求める訴えが併合されているときは、後者について確認の利益があることはもとより、前者についても、民訴法145条1項の法意に照らし、当然に確認の利益が存するものとして、決議の存否の判断に既判力を及ぼし、紛争の根源を絶つことができるものと解すべきである(最高裁平成10年(オ)第1183号同11年3月25日第一小法廷判決・民集53巻3号580頁)。
そして、先行する役員選任又は解任決議の取消しを求める訴えに、上記のような瑕疵の継続を主張して後行決議の不存在確認を求める訴えが併合されている場合であっても、先行の株主総会決議の取消しを求める訴えの認容判決が確定し、当該決議が遡及的に効力を失えば、後行決議が存在しないことになるなど、後行決議の存否を決するために先行決議の効力の有無が先決問題となる関係にあるならば、上記の理は同様に妥当すると解される。
⑵ 本件においては、C及びEの2名の取締役によって本件選任がされたところ(中略)、E選任決議の取消しによってEが遡及的にYの取締役の地位を失えば、Yの取締役2名(B及びC)のうち、Cのみが自身を代表取締役に選任したことになり、代表取締役の選任に必要な取締役の過半数の決定(中略)を欠き、本件選任はYの定款に違反して無効となる。そして、Yの定款は、社長が株主総会を招集することを求めている(中略)から、本件選任が無効になれば、Cは平成28年総会を招集する権限を遡及的に失うこととなり、平成28年総会は無権限者が招集したものとなり、平成28年総会決議が全員出席総会においてされたなどの特段の事情が認められない本件においては、平成28年総会決議は法律上存在しないものになる。
同様に、X解任決議についても、当該決議の取消しによってXが本件選任がされた平成27年10月14日時点で取締役の地位を回復すれば、Yの取締役4名(B、C、E及びX)のうち、Cを代表取締役に選任した者は2名(C及びE)にとどまる結果、本件選任はYの定款に違反して無効となり、その結果、平成28年総会決議は法律上存在しないものになる。
そうすると、先行するE選任決議及びX解任決議の取消しを求める訴えに、その瑕疵の継続を主張して平成28年総会決議の不存在確認を求める訴えが併合されている本件においては、E選任決議及びX解任決議の取消しを求める部分の訴えの利益は存在するというべきである。
3 争点2(平成27年総会が定足数を満たしておらず、決議の方法が法令又は定款に違反するといえるか。)
⑴ CがBの代理人として出席したことの有効性について
ア (中略)Bは、平成27年2月、Y及び株式会社dの双方を代表して貸金の弁済期及び利率の変更合意をし、また、同年6月にはb社の代表取締役に重任されているというのであって、Bは、これらの時点において、企業の経営者に求められる各種行為をするのに必要な判断力を有していたと推認できる。
また、(中略)Bは、同年7月8日の時点において、CからXの経営上の失敗の報告を受け、Xを呼び出して叱責したり、Xが○○グループの乗っ取りを図ることに警告したほか、同月27日にF社長と面談した際も、F社長の説明に反論しつつ、繰り返し辞任を求めるなどしている。これらの事情によれば、Bは、上記各時点において、周囲の報告を理解してその場の状況を認識し、概ねその状況に対応する行動を取っていると評価できる。
そして、Bは、上記F社長との面談の翌日である同月28日に、同社の代表取締役を解任されたところ、Bはこれを聞いてXがb社の経営権を奪ったとして激怒したというのであるから(中略)、Bが、Cの説明を基に、b社の筆頭株主であるYからXを排除しようとして、本件委任1をするに至ったものと推認できる。そして、このような行動は、その時々に周囲から了知された情報を基にその場の状況を認識して、その状況に対応する行動として理解可能なものである。
加えて、CがBに示した本件株式譲渡の契約書には、目的物及び代金が明記され、本件委任1の委任状には、XをYの取締役から解任してEを取締役に選任する内容の議案を含む別紙1記載の各議案の内容が記載されていたことが認められ、Bがb社をはじめとする○○グループの創業者であることも考慮すると、Bは、本件株式譲渡及び本件委任1の行為の結果を認識し、これに基づいて本件株式譲渡及び本件委任1に係る意思決定をしたと認めることができる。
したがって、Bが、本件株式譲渡及び本件委任1がされた平成27年8月及び同年9月の当時、本件株式譲渡及び本件委任1に係る意思能力を欠いていたと認めることはできない。
イ これに対し、Xは、Bが平成28年2月3日にソウル家庭法院の第1回審問期日において、裁判官の質問に対し、今年が1955年であると回答するなど、時間や場所に対する認知能力が著しく低下していたことや、ソウル家庭法院が、平成28年8月29日、Bの限定後見を開始する審判を行ったことなどから、本件株式譲渡及び本件委任1がされた平成27年8月及び同年9月の時点において、Bは意思能力を欠いていたと主張する。
しかし、Bは、ソウル家庭法院から、一般的に行為能力を喪失しない限定後見を開始する審判がされたにとどまるのであり、このような事実があるからといって、本件株式譲渡及び本件委任1がされた平成27年8月及び同年9月の時点において、Bが意思能力を欠いていたと直ちに認めることはできない。この点、Xは、Bに対して適正な鑑定が行われていれば、Bに成年後見を開始する審判がされることも十分にあり得た旨を主張するが、推測にとどまるものであって上記判断を覆すに足りない。
また、Xは、Bが平成27年7月にF社長と面談した際、B自身がF社長をb社の代表取締役に指名した事実を失念し、同席していた者に促されるまま、F社長に辞任を迫るなどしており、正常な判断能力が欠如していたとも主張する。
確かに、(中略)、Bは、F社長に対し、同趣旨の質問を繰り返していた事実が認められるものの、他方で、前記認定のとおり、Bは、○○グループの創業者である自分がF社長に社長を辞めるよう指示したにもかかわらず、F社長がいまだ辞めていないとして、社長を辞めるよう繰り返しF社長を説得しようとするなどしたというのであり、その言動はおおむね一貫したものである。そうすると、Bは、記憶力等に一定の減退がうかがわれるものの、自身の置かれた状況を相応に認識し、それに対応する行動を取っていると評価することができる。
Xは、他にもBが意思能力を欠いていたことを推認させるものであるとして様々な事実を主張し、その中には、認知症治療薬の服用など、Bの記憶力の減退をうかがわせる事情もあるが、これらによっても、Bが、平成27年8月及び同年9月の時点において、自己の行為の結果を正しく認識する能力を欠いていたと認めるには足りないというべきである。
ウ よって、平成27年総会において、CがBの代理人として出席し、Bの議決権が行使されたことが認められる。この点に関するXの主張は採用できない。
⑵ そうすると、平成27年総会には、議決権を行使することができる株主(合計4万株)の議決権の過半数を有する株主(C・2万株及びB・333株)が出席したと認められるから、争点2中、Cがa財団の代表理事として出席したことの有効性について判断するまでもなく、平成27年総会は定足数を満たしていることが認められる。
したがって、平成27年総会の決議の方法が法令又は定款に違反したと認めることはできない。
4 争点3(Z₂が出席と扱われたことが、決議の方法として著しく不公正であるといえるか。)について
Xは、Z₂代表理事としての平成27年総会への出席は、Z₂ではなく専らC自身の利益を図る目的でされたもので、代表理事の権限を濫用したものであり、Yはそのことにつき悪意であったから、Z₂を出席と扱った平成27年総会決議の方法が著しく不公正であると主張する。
しかし、Z₂の出席が有効か否かを判断するまでもなく、C及びCの代理によるBの出席により平成27年総会の定足数は満たされている(中略)。株式会社の株主は、株主総会において自らの意見を会社経営に反映させるため、他の株主に対して自らと同様の議決権行使を勧誘したり、自らに対し他の株主の議決権行使を委任するよう勧誘したりすることは、原則として違法不当ではないことを踏まえると、上述のとおり、C及びCの代理によるBの出席により定足数が満たされている本件においては、Z₂を出席と扱うか否かは、平成27年総会決議の成否に何ら影響を及ぼすものではないから、X主張の上記事実をもって直ちに平成27年総会決議の方法について著しい不公正があるということはできない。
5 争点4(Cの平成28年総会を招集する権限の存否)について
(中略)、平成27年総会決議には瑕疵は認められないから、同決議により、Yの取締役は、B、C及びEの3名となったことが認められるところ、(中略)、その過半数である2名(C及びE)が本件選任をしている。したがって、Cは、適法にYの代表取締役に選任されたものであり、Yの代表取締役社長として、平成28年総会を招集する権限を有していたと認められる(なお、Yの定款12条には、総会は社長が招集する旨定められているが、Cのほかに社長に選任された者がいるなどの事情が認められない本件においては、Cが代表取締役に選任されると同時に社長にも選任されたと認めるのが相当である。)。
(中略)
6 争点5(平成28年総会が定足数を満たしておらず、決議の方法が法令又は定款に違反するといえるか。)について
⑴ 本件株式譲渡の有効性(平成28年総会におけるCの有する株式数)について
平成27年8月14日にされた本件株式譲渡について、Bに意思能力の欠缺が認められない(中略)。
そして、本件株式譲渡は、平成27年10月14日、C及びEをYの取締役として承認されているところ、平成27年総会決議に瑕疵がないことは前記3及び4における認定、説示のとおりであるから、本件株式譲渡は、取締役の過半数に当たる2名の決定による承認を受け、Yとの関係でも効力を生じたものと認められる。
したがって、Cは、平成28年総会の基準日である平成28年3月31日時点において、Yの株式を2万0001株保有していたと認められる。
⑵ そうすると、争点5中、CがBの代理人として出席したことの有効性について判断するまでもなく、平成28年総会は定足数を満たしていることが認められる。
よって、平成28年総会について、決議の方法が法令又は定款に違反するとは認められない。