
2023.10.25
(H28-⑻)
被告Y1株式会社(以下「被告会社」という。)の取締役であった原告らが、原告らと被告会社との間に、原告らに対する退職慰労金を、株主総会の決議を経て支給する旨の合意が成立しているにもかかわらず、当該合意を履行しないことが債務不履行、ないしは不法行為に該当するなどと主張して、被告会社及び同社代表者Y2(以下被告「Y2」という)に対して損害賠償を求めて提訴した。
1 原告ら主張に係る支給合意の有無、及び原告らに対する被告会社の退職慰労金支給義務の懈怠の有無について
株式会社の取締役ないし監査役であった原告らについて、株主総会の決議によらないでも、退職慰労金請求に関し、何らかの権利性を認めうることを前提にした原告らの主張については、前提において、その根拠がないこととなり、全て採用することができない。(中略)
以上から、争点②③についての原告らの主張については、原告らに退職慰労金の請求に関し何らかの法的効力があることを前提にした主張と解されるので、いずれも採用できない。
2 被告Y2が、原告らにおいて主張する退職慰労金の支給合意に基づいて、退職慰労金支給議案を上程しないことに違法性があるかについて
原告らは、被告Y2につき、会社法429条1項に基づく任務懈怠の主張をするが、当該主張は、株式会社の取締役ないし監査役であった原告らについて、株主総会の決議によらないでも、退職慰労金請求に関し、何らかの権利性を認めうることを前提にした主張と解され(中略)、採用することができない。(中略)
また、原告らは、原告ら主張の支給合意につき、被告Y2個人との合意と構成して、これを前提にした合意違反を内容とする主張をする。しかしながら、前記1で認定したとおり、被告Y2は、被告会社の経営規模、株主構成等から、株主総会における議決に対し影響力を有していない上、また、株主に対し代表取締役として経営責任を負う被告Y2が、原告らに対し、原告ら主張の支給合意を内容としたあえて個人的約束をしたとは到底認めがたく、上記主張は採用できない。(中略)
よって、被告Y2が被告会社の取締役会に、原告らの退職慰労金支給議案を付議しないことについて違法性があるとは認められない。(中略)
以上から、主位的請求の趣旨に関するすべての原告らの主張については、その余の点を判断するまでもなく、理由がない。
3 従業員退職金の請求の可否について
原告X1、原告X3及び原告X4は、取締役在任期間中に従業員を兼務していたことを前提に、本件支給規程に基づき、従業員としての退職金請求をしている。(中略)
本件支給規程は、その文言から明らかに、使用人兼務取締役の使用人分の退職金の支給を定めたものではなく、役員退職慰労金の算定方法を定めたものにとどまる上、被告会社の役員は、従業員から役員に就任する際、従業員の退職金については別の退職金規程によって清算されて別途支給されていることに鑑みると(弁論の全趣旨)、本件支給規程をもって、使用人兼務取締役が使用人分の退職金を別途請求できることと解することはできず、ほかに使用人兼務取締役の使用人分の退職金の支給の根拠を適確に認めるに足りる証拠がないことからすると、原告X1、原告X3及び原告X4の従業員退職金の請求に関する主張を採用することはできない。(中略)
よって、原告X1、原告X3及び原告X4の、本件支給規程に基づく、従業員としての退職金請求については、その余の点を判断するまでもなく、理由がない。
4 期待権侵害について
原告らは、本件支給議案上程決議あるいはその後の被告Y2の言動等から退職慰労金の支給を受けるにあたり法的に保護する値する期待権を有するに至ったと解される旨の主張をするので、判断する。(中略)
株式会社の取締役ないし監査役であった原告らについて、株主総会の決議によらないでも、退職慰労金請求に関し、何らかの権利性を認めることはできず、また、被告会社は、明らかに所有と経営が分離した典型的な物的会社であることから、会社内部の人的関係等から、原告らの退職慰労金の支給に対する期待権を法的に基礎付けることも相当でない。
さらに、(中略)原告らに対する退職慰労金の支給がなされていない背景には、会社の経営状態の悪化が退任取締役の経営責任によるものとして判断したことがうかがわれることからすると、原告らに対するその責任の取らせ方として退職慰労金不支給という判断が妥当かといった問題は、高度な経営判断に属し、裁判所がその合理性を良く判定すべき事項とも考えられない。(中略)
そうすると、原告らの主張する事情によっても、原告らの主張するような期待権、さらにはその侵害を認めることはできず、原告らの期待権侵害に関する主張はその余の点を判断するまでもなく理由がない。(中略)
以上から、原告らの請求は、いずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法61条を適用して、主文のとおり判決する。