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ホーム企業の皆様へ株主総会関連判例退職慰労金の法的権利性が問題となった事例(2件)一覧 > 退任した監査役による会社及び当時の代表取締役に対する損害賠償請求が棄却された事例(東京地判平30・2・20 判例タイムズ№1458・217)
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退任した監査役による会社及び当時の代表取締役に対する損害賠償請求が棄却された事例(東京地判平30・2・20 判例タイムズ№1458・217)

2023.10.19

(R2-⑻)

① 事案の概要

 Xは、Y₁の監査役であり既に退任した者であるが、Y₂(XがY₁の監査役を退任した当時にY₁の代表取締役であった者)が、Xに退職慰労金を支給する旨の議案をY₁の株主総会に提案しなかったことが不法行為にあたるとして、Y₂に対しては民法709条に基づいて、Y₁に対しては会社法350条に基づいて、各自、XがY₁から受領するはずであった退職慰労金相当額の損害賠償、慰謝料及び弁護士費用相当額の支払いを求めて提訴した。

 Xが、Y₂らの行為が不法行為に該当する旨主張する根拠は、次のようなものであった。

  ①Y₁と監査役任用契約を締結した際に退職慰労金支給特約を締結していた。

  ②XとY₂との間において、Y₁がXに退職慰労金を支給するとの約束がなされた。

  ③取締役会においてXに退職慰労金を支給する旨の議案を株主総会に提出することが可決された。

② 判決要旨

 ⑴ 退職金付与特約の存在及びこれに基づく監視義務違反

 「監査役の退職慰労金は、その在任中における職執行の対価として支給されるものである限り、会社法387条における報酬等(会社法361条)に含まれるものであるところ、監査役の報酬等は、定款にその額を定められていないときは、株主総会の決議によって定めるとされている(会社法387条1項)。そして、監査役の報酬等は、定款又は株主総会の決議によって、報酬等の額が定められなければ具体的な請求権は発生せず、監査役が会社に対し報酬等を請求することはできず、このことは、内規で退職慰労金の支給基準が定められて、これまで、退職慰労金の支給がなされてきた慣行がある場合であっても同様である。(中略)

 Y₁には本件退職慰労金規程が存在し、これに基づく役員退職慰労引当金を負債に計上しており、これらに基づいた支給実績もあるものと認められる。また、(中略)、Xは、Y₁の非常勤監査役になる際に、Dに対し、監査役を退任した際の退職慰労金について確認したところ、Dは、内規があるので、非常勤では金額も少ないものの支給される旨答えたことも認められる。(中略)

 しかしながら、上記(中略)の会社法の解釈に照らせば、このような事情があったからといって、定款又は株主総会の決議によって額が定められなければ具体的な請求権は発生しないとされる退職慰労金請求権が発生するとはいえない。そうでなければ、会社法が上記のように定めたにもかかわらず個別の事情により退職慰労金請求権が発生することとなり、このような規制をした趣旨が没却されるからである。

 したがって、監査役の退職慰労金請求権については、定款又は株主総会の決議によって額が定められない限り法的保護に値する権利であるとはいい難いものであり、このような退職慰労金について、定款又は株主総会の決議によって額が定められるか否かにかかわらず支給がされる旨の約束を株式会社と監査役(あるいは監査役になろうとする者)との間でしたところで、法的に意味があるものではなく、また、このような約束をすること自体通常考え難いものである。

 ⑵ 退職慰労金に関する取締役会決議の存在及びこれに基づく義務違反

 「平成25年5月10日の決算取締役会において、Y₁の当時の代表取締役として、Xに対する退職慰労金贈呈の件を削除した内容に修正した議案とする提案をしたY₂、及びこれを可決した取締役会は、Xに対する(中略)問題に対する経営責任を問うべくしてこれを行ったものと認められる。そして、この当否は、Y₂ないし当時の取締役会の高度の経営判断に関わる事項であり、上記のような経緯やその他の証拠上認められる事情に照らしても、単なる見せしめであるとか報復であり、一見して不当であるとなどといえるものではない。(中略)

 本件では、平成25年4月15日の取締役会で、一度、第68回定時株主総会においてXの退職慰労金の贈呈の議案を提案することについて決議がされているものの、その後、平成25年5月10日の決算取締役会において、Xに対する退職慰労金贈呈の件を削除した内容に修正した議案とする提案については、出席取締役が全員異議なくこれを承認可決したものとされているのであり、結果として、Xの退職慰労金の贈呈の株主総会への議案の提案の取締役会決議は存在しない。

 ⑶ 信義則違反または権利の濫用

 「監査役の退職慰労金請求権については、定款又は株主総会の決議によって額が定められない限り法的保護に値する権利であるとはいい難いものであり、(中略)、Xに退職慰労金の贈呈についての株主総会決議がないにもかかわらず、Xに退職慰労金を支給しないことが信義則に反しあるいは権利の濫用となることは、およそ想定し難い。

 しかも、本件では、(中略)一連の経過を踏まえてXに対する経営責任を明らかにすることから退職慰労金支給をしないこととしたものであり、この当否はY₂ないし当時の取締役会の高度の経営判断に属するものであって、一見して不当であるとはいい難いことからすれば、Xに対する退職慰労金支給をしないこととしたことが、信義則に反し、あるいは権利の濫用に該当すると認めるに足りない。」

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