
2023.10.26
(H27-⑶)
サンゴマム株式会社(以下「控訴人」という。)は、発行済株式300株の株式会社であり、株主はA(80株)、B(40株)、C(60株)、D(60株)、及び被控訴人(60株)の5名であった。
控訴人は、平成22年7月4日、普通株式500株を新たに発行してE社に割り当てたところ(以下「本件新株発行」という。)、被控訴人が、主位的に本件新株発行の不存在確認、予備的に本件新株発行が無効であることの確認等を求めて訴えを提起した。
かかる訴えについて、原審は、主位的請求を棄却し、本件新株発行を無効とする旨の予備的請求を認容した上、その余の請求は全て棄却した。これに対し、控訴人が、控訴人敗訴部分の取消と、被控訴人の新株発行を無効とする旨の請求を棄却する旨の判決を求めて控訴した。
ア 本件新株発行決議は不存在かについて
本件では、少なくとも発行済株式総数(300株)の8割(240株)を占める、被控訴人、A、B及びCに対して招集通知がされず、同人らが6月30日株主総会に出席することができなかったのであるから、6月30日株主総会を、法律上の意義における株主総会であると評価することはできない。
よって、本件新株発行決議は不存在であるというべきである。
イ 本件新株発行決議の不存在は無効原因かについて
(ア) 一般論
a 会社法においては、株式譲渡制限会社と公開会社を明確に区別し、株式譲渡制限会社が新株を発行する際には株主総会の特別決議を必要とし、公開会社よりも新株発行の手続をより厳格にしている。これは株式譲渡制限会社において、新株発行が既存株主の持株比率を変動させることから、既存株主の持株比率の維持をできる限り保護することにある。
そして、株式譲渡制限会社において新株を発行する場合、株主に対して新株の募集事項を通知又は公告することが不要とされているから、既存株主には、会社に対し、新株発行についての株主総会以外に新株発行を阻止する機会が十分に保障されていない。
b そうだとすれば、株主総会の決議を経ずに新株が発行されたことは、当該新株発行時点において、既存株主が持株比率の減少を了承していたなど特段の事情がない限り、無効原因に該当するものと解するのが相当である。
(イ) 本件への適用
a 本件新株発行決議の存否
これを本件についてみると、まず、控訴人は株式譲渡制限会社であり、新株発行には株主総会の特別決議を要するところ、上記のとおり、本件新株発行決議は不存在である。
b 特段の事情の存否
被控訴人、A、B及びCらは、一旦は本件新株発行を含むJないしE社の4000万円程度の出資を了承し、現実に、FないしE社によりその出資金が控訴人に入金されて本件新株発行がされたにもかかわらず、その後、言を左右にして前言を覆すという信義に悖る言動をしているのであって、本件新株発行については、本件新株発行決議は不存在ではあるものの、既存株主が全て本件新株発行時点において、本件新株発行による持株比率の減少を了承していたと認められるから、新株発行の無効原因とはならないと解するのが相当である。