
2023.10.26
(H27-⑵)
麻布繊維工業株式会社(以下「原告」という。)が、過去に代表取締役であった者(以下「被告」という。)に対し、その任期中、株主総会決議を経ることなく合計2409万円の役員報酬の支払いを受けていたとして、会社法423条に基づき損害賠償を求めた。
ア 報酬支払いについて全株主の同意があったと認められるかについて
各事情を総合すれば、平成23年9月事業年度の原告の被告に対する360万円の役員報酬の支払については株主総会決議に代わるA及びEを含む全株主の同意があったものといえるし、その他の事業年度における原告の被告に対する役員報酬の支払についても、A及びEは、その役員報酬が支払われた当時は、いずれも株主総会の不開催に異議も述べない経営に関心のない株主であり、実質的な株主とはいえないし、A及びEはいずれも原告において株主総会を開催することなく一定の役員報酬が支払われていたことを認識し、これを許容していたといわざるを得ないのでから、実質的には、原告の株主全員の同意があったものと同視することができるといえる。
イ 株主総会決議を経ない役員報酬支払いの適法性について
会社法361条1項が、取締役の報酬等の額については、定款に定めのないときは、株主総会の決議によって定めるとし、取締役の報酬の額の決定を株主総会の決議にかからしめている趣旨は、取締役の報酬の額について、取締役ないし取締役会によるいわゆるお手盛りの弊害を防止するために、これを定款又は株主総会の決議で定めることとし、株主の自主的な判断にゆだねているからであると解される(最高裁平成11年(受)第948号・同15年2月21日第二小法廷判決・判例タイムズ1172号96頁参照)。そうすると、株主総会決議を経ないで取締役の報酬が支払われた場合であっても、株主総会決議を経た場合と同視できる事実が存在する場合、すなわち、株主総会決議に代わる全株主の同意があった場合には、上記趣旨を全うすることができるのであるから、当該決議の内容等に照らして上記規定の趣旨目的を没却するような特段の事情が認められない限り、当該役員報酬の支払は適法有効なものになるというべきである。