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役員報酬額について全株主の同意があったとして、取締役の報酬請求を棄却した原審の判断を一部変更した事例(東京高判平30・6・28 金融・商事判例№1549・30)

2023.10.19

(H31-⑷)

① 事案の概要

   本件は、Yの取締役であったXが、Yに対し、次の各支払いを求めて提訴した事案である。 

 ① XがYの取締役であった期間に係る役員報酬合計1098万7891円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成27年11月19日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金(主位的請求。うち494万7700円の部分については、予備的請求として同額の賃金及び遅延損害金)

 ② 退職慰労金1788万7406円及びこれに対する同日から支払済みまで年6分の割合による遅延損害金

 ③ 貸金400万円及びこれに対する同日から支払済みまで年6分の割合による遅延損害金

   原審は、これらをいずれも認めず、Xの請求を棄却したため、Xがこれを不服として控訴した。

④ 決定要旨

 3 争点1⑴について

   前記認定によれば、本件規程には、役員の報酬は株主総会が決定する報酬総額の限度内で取締役会が決定することとされており、Yは、平成12年ころからY代表者ら4名の話合いによって各取締役に支払われる役員報酬の額を決めており、Xに対して支払っていたことが認められる。

   証拠(中略)によれば、Yの役員報酬額は、平成17年1月から平成18年9月までが月額133万円、同年10月から平成19年6月までが月額113万円、同年7月から平成21年5月までが月額79万1000円、同年6月以降が月額68万8170円であったことが認められる。Yは、甲4号証がXにおいて作成したもので信用性がない旨主張するが、Xは、平成12年6月にYの取締役に就任し、取締役を辞任するまで約15年間にわたりYの取締役として経理業務を担当していたこと、Xの下で経理業務を担当していた証人Cは、訴状別紙の一覧表を示されて、Xに対して関連会社であるa社等から報酬が支払われていた旨証言するところ、その基となる甲4号証の内容の記載の真実性について、事実と異なる旨の供述をしていないこと、Yからは、甲4号証の信用性に疑義を生じさせる具体的な事情についての指摘もされていないことなどからすると、これを信用することができ、Yの上記主張は採用できない。

   このように、Yにおいては、株主総会の決議はないものの、長期間にわたり、Y代表者ら4名の合意に基づいて役員報酬の額が決められ、Xに対して報酬が支払われていた事実が認められ、前記認定事実によれば、Y代表者ら4名が保有する株式は全株式の98.8パーセントを占め、Y代表者ら以外の株主は合計でもわずか1.2パーセントの株式しか保有しておらず、Y代表者ら以外の株主は、いずれもYら4名の決定に対して異議を述べた事実がないことを認めた上で、役員報酬額に関して、Yら4名の決定に委ねていたという認識を示しており(中略)、その中でも、Yの株式の1パーセントを保有する第一衣料株式会社は、株主であるとの認識すらなく、Y代表者ら4名が決めたXの役員報酬額に異議がない旨述べて(中略)、上記の役員報酬額に同意の意思を表明している。そして、Y代表者ら以外の株主がXの取締役在任期間中にYの株主権を具体的に行使した事実は、本件証拠上認められない。

   以上の事実に照らすと、Yにおいては、Y代表者ら4名が全株式の98.8パーセントを保有し、総会決議事項についてもY代表者ら4名の意思によって決定することが可能な中で、役員報酬額をY代表者ら4名で決めており、Y代表者ら以外の株主は、Y代表者ら4名が報酬額を133万円と定めたこと、これを平成19年7月に79万1000円、平成21年6月に68万8170円にそれぞれ減額したことにそもそも関心すら持たず、異議を述べることもなかったというのであるから、Y代表者ら以外の株主は、役員報酬額についてY代表者ら4名の判断に任せていたとみることができるのであって、Y代表者ら4名の定める報酬額に同意していたと認めるのが相当である。そして、上記認定は、Y代表者ら以外の株主がX代表者ら4名の定める報酬額を具体的に認識していなかったことによって妨げられるものではない。

   そうすると、Xの役員報酬は、報酬額の決定について全株主の同意があるといえるから、Y名義の報酬については、具体的な報酬請求権として成立しているというべきである。

  4 争点1⑵について

   Yとa社等はそれぞれ別人格の法人であって、関連会社名義の役員報酬はa社等が支払うべき性質のものであり、Yはその主体ではないから、これをYの役員報酬とみることはできない。

   Xは、c社やb社がYの実質的に支配する会社であって、税務会計上の観点から賃金台帳上の表記を変えているにすぎず、関連会社名義の役員報酬についてもYが支払義務を負っていると主張するが、証人Cによれば、a社等は、過去に実際に営業していたことがあり、実体のある法人として存在していたというのであるから、これら法人の役員報酬についてYが直接支払義務を負うことにはならない。

   したがって、Xの主張は採用できない。

  5 争点1⑶について

   XがYの取締役を辞任することを記したXの辞任届には、平成27年8月17日付けのもの(中略。以下「辞任届1」という。)と同年10月14日付けのもの(中略。以下「辞任届2」という。)が存在する。

   証拠(中略)によれば、Yの平成27年2月1日から平成28年1月31日までの事業年度に係る確定申告書には、Xの役員報酬として、619万3530円が計上されているところ、これは、Xの9か月分の役員報酬(68万8170円×9か月)を計上したものと認められる。上記確定申告書は、Yの監査役である税理士の署名押印がされており(中略)、Y代表者も了解した上で提出されている(Y代表者本人)。そして、証人Cは、Xが辞任届1を提出した後も会社の6階フロアに出向いて来ており、3階にいる経理担当者がXのところに何度か足を運んでいることを承知している旨供述している。そうすると、Yは、Xが辞任届1を提出した後も、取締役であることを前提とした扱いをしており、Xも実際に取締役としての業務を行っていたと認められるのであるから、Xは、辞任届2を提出するまでは取締役であったと認めるのが相当である。Xが辞任届1を提出した後Yの業務を何も行っていなかった旨のY代表者の供述は、前記認定に照らし採用できない。

   そうすると、Xは、平成27年10月14日にYの取締役を辞任したと認めるのが相当である。

  6 争点1⑷について

   a社等がYと別法人であり、Yが関連会社名義の役員報酬を支払うべき主体でないことは、前記4において説示したとおりである。

   したがって、関連会社名義の役員報酬部分を賃金であるとして、Yにその支払を求める予備的請求も理由がない。

  7 争点2について

   前記前提事実によれば、Yの役員の退職慰労金は、役員が退職する場合に株主総会の承認を経て支給されると定められているところ、本件証拠によっても、Yの取締役を辞任したXの退職慰労金の支給についてY代表者ら4名がこれを承認した事実を認めることはできない。

   Xは、退職慰労金についても、役員報酬と同様に、Yにおいては過去に退職慰労金の支給が行われてきており、全株主において同意を得たものとみることができ、また、その支払を拒絶することは、信義則に反すると主張するが、Xの退職慰労金の支給については、そもそもY代表者ら4名による承認自体が認められないのであるから、取締役の報酬と同列に扱うことはできない。

   したがって、Xの退職慰労金を具体的請求権として認めることはできない。

  8 争点3について

  争点3についての判断は、次のとおり補正するほかは、原判決の「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」の4(12頁13行目から25行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。

   (中略)

  

 ⑵ Xは、上記の利用について、個別に用途を掲げてYの業務との間に関連性があると主張し、Bはこれに沿う供述をするが、Bの供述は、これを裏付ける客観的な証拠がなく採用することができず、他にXの主張を裏付ける的確な証拠はない。

   また、Xは、コーポレートカードの私的な利用は、Y代表者やDも行っており、Xは、Y代表者に対して、交際費使用申請書の制度を設けて管理するよう進言したにもかかわらず、Y代表者はこれを拒絶しており、Xの善管注意義務違反は認められないと主張する。

   しかし、Xが主張する事実は、これを裏付ける的確な証拠がない。のみならず、Y代表者らによるコーポレートカードの私的な利用があったとしても、Xが本件コーポレートカードの適正な利用についての確認・点検義務を免れるわけでないことは、原判決も判示するとおりであって、交際費の使用に関する進言についても同様である。

   さらに、Xは、Y代表者がコーポレートカードの利用に係る取引明細を確認しており、本件コーポレートカードの使途も認識しており、業務との関連性を認めていたと主張するが、これを認めるに足る的確な証拠はなく、また、かかる事実をもってXの確認・点検義務を免れさせるものでないことは、前記説示のとおりである。

   したがって、Xの主張は、いずれも採用できない。

 ⑶ そうすると、原判決が善管注意義務違反を認めた本件コーポレートカードの利用のうち、「アトレエビス」(中略)を除いた利用(合計額686万7092円)について、Xは取締役の善管注意義務・忠実義務に違反したと認めるのが相当であり、会社法423条1項に基づき、Yに対し、損害賠償義務を負う(なお、Yは、原審において、選択的に不当利得の返還を請求しているが、理由がない。)。

   そして、上記債務は期限の定めがない債務であるから(最高裁判所平成26年1月30日第一小法廷判決・裁判集民事246号69頁)、Yにおいて相殺の抗弁を主張した平成28年8月31日に期限が到来したとみることができる。

  10 相殺の処理について

   ⑴ Xの役員報酬請求権

  Xが請求する役員報酬のうち、Y名義の部分は、平成25年5月分について17万円、平成26年9月分、10月分及び平成27年1月分ないし5月分について各47万9511円、同年6月分について48万1211円、同年7月分ないし9月分について各48万1411円であるところ(中略)、その合計は、545万2021円となる。

  そして、Y名義に係る平成27年10月分の役員報酬について、Xは58万8170円(68万8170円から社宅料10万円を控除した額)を請求しているところ、前記のとおり、Xは、同月14日にYの取締役を辞任しているから、取締役を辞任した日を基準として日割計算すると、同月の報酬額は26万5625円(小数点以下切捨て)となる。

  そうすると、Yの役員報酬額は、合計571万7646円となる。

   ⑵ Xの貸金返還請求権

  前記8のとおり、Xは、Yに対し400万円の貸金返還請求権を有する。

   ⑶ Yの損害賠償請求権

  前記9のとおり、Yは、Yに対して、686万7092円の損害賠償請求権を有する。

   ⑷ 相殺による充当関係

  本件規程(中略)によれば、役員報酬は、従業員給与の支給日である毎月28日に支給するとされていることが認められる。したがって、上記⑴の報酬請求権は、各月28日にそれぞれ期限が到来している。

  Xの貸金返還請求権は、期限の定めがないから、Xの訴状の送達による催告後相当期間が経過した後である平成27年12月1日に弁済期が到来するものと認める。

  そうすると、Yの相殺により、上記(3)の債権は、まず上記⑴の債権で弁済期が先に到来するものに充当され、その後に上記⑵の債権に充当されることになる。

  これによれば、上記⑴の債権はすべて相殺により消滅し、上記⑵の債権は114万9446円の限度で相殺により消滅し、残額は285万0554円となる。そして、上記⑶の債権は相殺によりすべて消滅することになる。

  11 結論

 以上によれば、Xの本訴請求は285万0554円及びこれに対する平成27年12月1日から支払済みまで年6分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却すべきところ、本訴請求を棄却した原判決は失当であり、本件控訴は一部理由があるから、原判決を上記のとおり変更し、Yの附帯控訴による反訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

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