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ホーム企業の皆様へ株主総会関連判例株主総会の決議を欠く処分の適法性が争われた事例(4件)一覧 > 出席株主全員の同意を決議要件とする定款の定めを原則として有効であるとした事例(東京高判令3・4・22 金融・商事判例№1649・2)
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出席株主全員の同意を決議要件とする定款の定めを原則として有効であるとした事例(東京高判令3・4・22 金融・商事判例№1649・2)

2023.10.30

(R5-⑴)

① 事案の概要

 Y社は、平成30年4月18日の臨時株主総会、及び同年5月28日の定時株主総会において、順次次の通りの議案を可決した。

 ⑴ 平成30年4月18日臨時総会(以下「本件臨時総会」という)

  ア B、D、CをY社の取締役に選任する決議

  イ D、E、Fに対して退職慰労金を支給する旨の決議

   *以下、これらの決議を併せて「別紙第1目録記載の各決議」という。

 ⑵ 平成30年5月28日の定時株主総会(以下「本件定時株主総会」という)

   Y社の第59期決算報告書を承認する旨の決議

   *以下「別紙第2目録記載の決議」という。

 なお、Y社の定款第11条は、「株主総会の招集は取締役解の決議をもって代表取締役が招集する」と定められていたところ、本件臨時株主総会及び本件定時株主総会を招集したのは、当時、取締役として適法に選任されていなかったD及びEであった(両名を取締役に選任する議案を可決したとの記載のある株主総会議事録はあるものの、同決議が不存在であることを確認する旨の判決が確定していた)。

 また、Y社の定款第14条は、「株主総会の決議は法令に別段の定めがある場合を除くほか出席株主全員の同意を要する」と定められていたが、上記各決議は、反対する株主が存在する中、賛成多数で可決された。

 以上のような事実関係の下、Y社の株主であるX₁とX₂は、本件臨時株主総会及び本件定時株主総会には、法令・定款違反があると主張して、主位的に、別紙第1目録記載の各決議の不存在確認および別紙2記載の決議の取消しを求め、予備的に、別紙第1記載の各決議の取消しを求めて提訴した。

 原審は、別紙第1目録記載の各決議の不存在確認請求及び別紙第2目録記載の決議の取消しについては棄却したが、別紙第1目録記載の各決議の取消請求についてはこれを認容した。

 かかる判決を不服としてY社が控訴したのが本件である。

② 判決要旨

 高裁は、基本的に原審の判決内容を是認して、これを引用・補正したほか、控訴審におけるY社の補充主張について独自に判断した。以下では、争点についての原審の判示を引用するほか、高裁の判示については、控訴審における上記補充主張に対する判断部分のみを引用する。

(原審の判示)

1 争点⑴(本件臨時株主総会の各決議が不存在であるか否か)について 

 ⑴ (中略)本件臨時株主総会の招集時において、E及びDは、Y社の取締役権利義務者であったことが認められる。

 ⑵ Xらは、Y社の定款11条は、株主総会の招集は取締役会の決議をもって代表取締役が招集する旨定めているところ、本件臨時株主総会を招集したE及びDは、いずれも当時Y社の取締役ではなかったから、取締役会を構成し得ず、本件臨時株主総会は、取締役会の決議もなく、権限のない者により招集されたもので、法律上の株主総会とはいえず、別紙第1目録記載の各決議はいずれも不存在であると主張する。    

   しかしながら、上記⑴のとおり、本件臨時株主総会の招集時において、E及びDは、いずれもY社の取締役権利義務者であったところ、取締役会の定足数(会社法369条1項)の算定の基礎となる取締役は、現存取締役の数が法律又は定款で定める員数の最低限(取締役会設置会社であり、かつ、定款において取締役会の定足数について別段の定めがないY社においては、会社法331条5項に基づき3名である。)を下回っている場合には、その最低限の数を基礎とすべきと解されるところ、本件においては、定足数を満たす2名の取締役権利義務者であるE及びDによって本件臨時株主総会の招集に係る取締役会の決議がされているものと評価することができるから、本件臨時株主総会の招集について取締役会の決議を欠く旨のXらの主張は、理由がない。

2 争点⑵(本件臨時株主総会及び本件定時株主総会の各決議が取り消し得るものであるか否か)について   

 Xらは、本件臨時株主総会及び本件定時株主総会においては、いずれも反対する株主がいたにもかかわらず、各決議が多数決で可決されているところ、これは、株主総会の決議は出席株主全員の同意を要する旨定めているY社の定款14条及び会社法309条1項に違反している旨主張する。   

 そこで検討するに、同項は、「株主総会の決議は、定款に別段の定めがある場合を除き、」「出席した当該株主の議決権の過半数をもって行う。」と定めているところ、同項に基づいて定款の定めにより決議要件を加重することは可能であると解されており、Y社の定款14条は、「株主総会の決議は法令に別段の定ある場合を除くほか出席株主全員の同意を要する。」と株主総会の決議に出席株主全員の同意を要する旨の定めを置いている。   

 かかる定款の定めも、原則として有効と解すべきであるが、計算書類の承認等、定時株主総会において必ず決議すべき事項についてまで出席株主全員の同意が要求されると、決議が成立せず会社運営に支障を来すおそれがあるから、当該定款は、上記の特定の決議事項に適用される限度において例外的に無効であると解するのが相当である。

 これを本件についてみると、本件臨時株主総会における別紙第1目録記載の各決議は、定時株主総会において必ず決議すべき事項に係るものではないから、同決議について出席株主全員の同意を要する旨のY社の定款14条は、原則どおり有効と解される。したがって、反対株主がいたにもかかわらず多数決で可決された同決議は、決議の方法がY社の定款14条に違反し、取り消し得るものというべきである。   

 他方、本件定時株主総会における別紙第2目録記載の決議は、定時株主総会において必ず決議すべき事項である計算書類の承認(会社法438条参照)であるから、同決議についても出席株主全員の同意を要する旨のY社の定款14条は、同決議に適用される限度において無効と解される。したがって、多数決で可決された同決議は、普通決議(会社法309条1項)の決議要件を満たすから、決議の方法が法令又は定款に違反するとは認められず、取り消し得るものとはいえない。

(控訴審の判示)  

 ⑴ Y社は、Y社の所有と経営が一致しなくなっていることなど、Y社が指摘する事情があることからすれば、Y社の定款14条を正当化する「立法事実」は存在しないから、同条は、無効であるなどと主張する。   

   しかし、Y社の定款14条の定めは、株式会社の定款に関する自治を認める趣旨から設けられた規定であるから、その改定を行う必要が生じた場合も、同じく会社の自治に基づき、株主総会決議(会社法466条)をもってその変更を行うことが予定されていたというべきであって、Y社の定款14条を定めた当時に存在した事情について、その後に変化が生じたという理由のみによっては、当該定款の定めが当然無効になると解することはできない。同条を正当化する「立法事実」が存在しないから、同条は無効である旨のY社の主張は、その理論的な根拠が不明確であるといわざるを得ず、採用することはできない。

 ⑵ Y社は、取締役の選任についても、出席株主全員の同意が要求されると、決議が成立せず会社運営に支障を来すおそれがある場合に当たるといえる上、定款自治の限界に関する原判決の判断は狭きに失し、誤っており、取締役選任決議の場合についても、Y社の定款14条は無効であると解すべきであるなどと主張する。   

   しかし、取締役の選任決議について、出席株主全員の同意を要する旨の同条の定めを置くに当たっては、当然のことながら、そのメリットやデメリットが検討されたものと推認される上、これまで同条を定款に関する自治により改定する機会は存在したものと認められる。また、同条により、仮に株主総会による決議の成立が不可能となった場合でも、役員等に欠員が生じた場合の措置(会社法346条参照)といった代替手段があることに鑑みれば、当該定款の定めを無効と解する必要はないというべきであり、Y社の上記主張を採用することはできない。

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