
2023.11.08
(H23-⑵)
仮処分を申立した株主が株主総会における委任状の勧誘を行うため、株主名簿の閲覧謄写の仮処分申立を行った事案に関して、申立を受けた会社は、当該請求が法125条3項2号(株主及び債権者が当該株式会社の業務の遂行を妨げ、又は株主の共同の利益を害する目的で株主名簿の閲覧謄写請求を行ったとき)及び法125条3項3号(株主及び債権者が当該株式会社の業務と実質的に競業者にある事業を営み、又はこれに従事するものであるときにおける株主名簿の閲覧謄写請求)に該当するとともに、仮処分申立の必要性がないとして株主名簿閲覧謄写請求を拒絶した事案に関して、東京地裁は要旨以下のとおり判断し、株主名簿閲覧謄写請求を認めた。
・法125条3項2号の該当性について
「会社法125条3項2号は、株主等の権利行使が権利の濫用にわたるものであってはならないという基本原理を株主名簿閲覧謄写請求権について宣明する趣旨に出たものであって、例えば、著しく多数の株主等があえて同時に閲覧謄写を求めたり、ことさらに株式会社に不利な情報を流布して株式会社の信用を失墜させ、又は株価を下落させるなどの目的で閲覧謄写を求めるような場合がこれに該当すると解される」として、株主が株主総会における委任状の勧誘を行うため、株主名簿の閲覧謄写請求を行った事案に関して、法125条3項2号に該当しないとして、株主の請求を認めた。
・法125条3項3号の該当性について
「株主名簿の場合には、株主構成に関わる情報が記載されているにすぎないため、単に請求者が競業者であるというだけでは、閲覧謄写によって得られた情報が競業に利用されて株式会社が不利益を被る危険性が高いということはできないから、定型的に権利濫用にわたる権利行使のおそれがあるとまでいうことはできない。また、単に請求者が形式的に競業者に当たるからといって株主名簿の閲覧謄写を拒絶することが許されるならば、このような請求者である株主が少数株主権の行使や委任状による議決権の代理行使の勧誘等を行うことが困難となるばかりか、株主が競業者に当たるかどうかによって、これらの権利行使の可否又は難易が左右されるという不合理な結果を招くことにもなりかねない。このような諸点にかんがみると、同項3号は、単に請求者が株式会社の業務と形式的に競争関係にある事業を営むなどしているというだけでは足りず、例えば、株式会社が得意先を株主としているため、競業者に株主名簿を閲覧謄写されると、顧客情報を知られて競業に利用されるおそれがある場合のように、株主名簿に記載されている情報が競業者に知られることによって不利益を被るような性質、態様で営まれている事業について、請求者が当該株式会社と競業関係にある場合に限られると解する」として、株主が株主総会における委任状の勧誘を行うため、株主名簿の閲覧謄写請求を行った事案に関して、法125条3項3号にも該当しないとして、株主の請求を認めた。