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ホーム企業の皆様へ株主総会関連判例株主総会の定足数を加重する定款の定めの有効性が問題となった事例(1件)一覧 > 株主総会決議に議決権行使可能な株主の2分の1以上の出席を要するとの定款の規程が当該株主総会には適用されないとされた事例(東京高判令和4・10・31商事法務2327・59)
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株主総会決議に議決権行使可能な株主の2分の1以上の出席を要するとの定款の規程が当該株主総会には適用されないとされた事例(東京高判令和4・10・31商事法務2327・59)

2025.09.18

① 事案の概要

 Xは、Y社の株主であり、以前、同社の代表取締役も務めた者である。
 Y社定款には、株主総会決議には議決権を行使できる株主の2分の1以上の出席を必要とする旨の定めが設けられていたところ、平成31年のY社株主総会(以下「本件総会」という。)においては、9名中4名が参加したにとどまった。そのため、Y社代表取締役Aは、定足数を満たさないとして決議事項を決議せず、Xによる議長不信任動議を図ることもせず、流会を宣言した。そこで、X自らが議長となり、会社提案にかかる取締役及び監査役の選任議案について、修正議案を提案し、取締役としてX、C、D、E及び監査役としてEがそれぞれ選任された。
 その後、Y社においては、複数の株主総会が開催されているものの、いずれもAが定足数を満たさないことを理由に閉会している。
 こうした中、Xが、本件決議により選任された役員(取締役X、B、C、D及び監査役E)が、それぞれ取締役及び監査役の地位にあること、並びに、本件総会時に役員の地位にあった者(取締役F、G、H及び監査役I)が任期満了によりその地位を失い、会社法346条1項に基づく権利義務を有していないことの確認を求めて提訴した。
 原審は、Xの請求をいずれも却下ないし棄却したため、Xがこれを不服として控訴した。

② 判決要旨 

 1 当裁判所は、原判決と異なり、控訴人の請求は主文第2、3項の限度で理由があるものと判断する。
その理由は、以下のとおりである。

 2 控訴人が、被控訴人の取締役として権利義務を有していることの確認を求める訴えについて原判決9頁24行目冒頭から同頁25行目末尾までに記載のとおりであるから、これを引用する。

 3 本件総会の継続(議長による流会宣言の効力)について
前記前提事実のとおり、本件決議は、議長であるAが本件総会の流会を宣言して本件総会の会場から退出した後、Xが議長となって行われたものである。このため、争点(1)(本件決議の有効性)を検討する前提として、そもそも本件総会が、議長の流会宣言により終了しているかが問題となる。
 前提事実及び証拠(中略)によれば、本件総会当日、議長であるAは、本件総会は定足数を満たしていないので決議をすることができないとして、報告事項に移る旨宣言したところ、X及び西助は、定足数を満たしていると述べて抗議したこと、これに対し、Aは当該抗議を受け入れず、なお議事を進行しようとしたことから、Xが議長の交代を求めたこと、Aは、これに対応しないまま、X及び西助の発言が不規則発言であることを理由として、本件総会につき流会宣言をして、総会会場から退出したことが認められる。
 議長は、総会の秩序を維持し、議事を整理する権限を有し(会社法315条1項)、議長の宣言により、株主総会は開会し、また、閉会する。そして、議長は、公正中立に議事進行を行うことが求められ、動議が出された場合には、濫用的なものでなければ、これを総会に諮ることが必要である。これを本件についてみると、上記認定のとおり、定足数の充足をめぐって、Xらが、議長であるAに対し、抗議した上、Xが議長の交代を求める動議を出したところ、これは議長の不信任動議であるから、Aは当該動機を総会に諮る必要があったというべきである。この点、Yは、Xらの発言が不規則発言であり、議場を混乱させるものであったと主張するが、これを認めるに足りる証拠はなく、かえって、Xらの抗議や動議の提出は、議場を混乱させるようなものであったとまでは認められない(中略)。しかるに、議長であるAは、提出された動議を総会に諮ることをしないまま流会を宣言したものであり、議事の途中であったといわざるを得ず、Aの流会宣言によっても本件総会は終了していないと認めるのが相当である。

 4 争点(1)について 

 ⑴ 定款12条は、株主総会における決議に当たっては、議決権を行使することができる株主の2分の1以上の出席を要するとしており、いわゆる頭数による定足数を定めるものである。そして、当該規定が取締役及び監査役の選任決議に当たっても適用されるとした場合、本件総会当時、Yにおいて、議決権を行使することができる株主は9名であったところ(中略。なお、Xは、当該株主は、X、F、G及びHの4名であったと主張するが、採用することはできない。)、本件総会に出席したのは4名であったことから、定款12条が定める頭数による定足数を充足していないこととなる。一方、株主総会における役員の選解任決議につき、会社法341条は、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(3分の1以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)をもって行わなければならないとし、議決権数による定足数を定めている。これによれば、本件総会当時、議決権を行使することができる株主9名の議決権数は2万2700株、本件総会に出席した株主4名の議決権数は合計1万3600株(中略)であったことから(中略)、定足数を充足していることとなる。そこで、会社法341条が、定款により役員の選解任に係る株主総会決議の定足数に頭数要件を設けることを許容しているかが問題となる。

 ⑵ 株主総会の決議の定足数及び決議要件に関する会社法の規定についてみると、309条1項は、株主総会の決議は、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数をもって行う旨規定し、定足数及び決議要件のいずれについても議決権数によることとする一方、これらにつき定款で別段の定めをすることができる旨を規定している。これに対し、同条2項は、1号から12号までに列挙する株主総会(会社の基盤に大きな変動を生じさせたり、株主への影響が大きい事項に関して決議する株主総会)の決議にあっては、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の3分の2以上をもって行わなければならないと規定するとともに、定足数につき定款で割合を3分の1以上と定めた場合にはその割合以上、決議要件につき定款で3分の2を上回る割合を定めた場合にはその割合以上と規定しており、定足数及び決議要件のいずれについても議決権数によることとしているほか、柱書で、決議要件につき一定の株主の賛成を要すること等の要件を付加することができる旨規定している。そして、株式会社における役員の選解任に係る株主総会決議については、309条とは別に、341条の規定がおかれ、議決権を行使することができる株主の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の過半数によると規定して、定足数及び決議要件のいずれについても議決権数によることとし、定足数につき定款で3分の1以上の割合を定めたときはその割合以上、決議要件につき定款で過半数を上回る割合を定めたときはその割合以上によるとされている。
 以上のような各規定の体裁からすると、会社法は、株主総会の決議における定足数及び決議要件について、資本多数決の観点から議決権数によることを基礎としつつも、定款によって異なる定めをすることを許容するのを原則としているが、会社ないし株主に重大な影響を及ぼす事項を決議する場合における株主総会の決議の定足数及び決議要件については、資本多数決を徹底し、定款で定めることができる内容を限定しているものということができる。すなわち、341条は、「第309条第1項の規定にかかわらず」とした上、定足数については「3分の1以上の割合を定款で定めた場合」、決議要件については「これ(過半数)を上回る割合を定款で定めた場合」と規定し、定款で定めることができる内容を限定している。そして、前記のとおり、定款で定めることができる内容を限定していることは、309条2項においても同様である。このような株主総会決議における定足数及び決議要件に関する309条1項、同条2項、341条の各規定が設けられた趣旨に照らすと、会社法は、役員の選解任に係る株主総会決議については、議決権数による定足数及び決議要件の下限を定めるとともに、定款で定めることができる内容を限定して、資本多数決によることを徹底しているものと解するのが相当である。
 これを本件についてみると、定款12条は、株主総会の決議につき定足数に頭数要件を設けたものであるところ、会社法341条は、このような頭数要件を定款で定めることを認めていないことからすれば(これを認めると、同条の趣旨である資本多数決の徹底が図られないこととなる。)、定款12条が定める定足数の規定は、役員の選解任に係る株主総会の決議には適用されないものと解するのが相当である。

 ⑶ これに対し、Yは、株主総会の決議につき定足数に頭数要件を設けた定款12条が、役員の選解任に係る株主総会決議に適用されることにより、少数株主を含めた多くの株主の意見を経営に取り入れることができることとなる旨主張する。しかし、会社法は、取締役の選解任における少数株主の意見を反映するため、累積投票制度(342条)や種類株主による取締役選任等の制度(347条)を別途設けており、これによって少数株主の保護は一定の限度で図られていること等からすれば、被控訴人の上記主張を踏まえても、上記(2)の判断は左右されない。また、被控訴人は、定款自治や、旧定款11条から定款12条へと定款を変更し頭数要件を導入した株主の意思を尊重すべきである旨主張する。しかし、上記のとおり、そもそも会社法341条は、株主総会の決議における定足数及び決議要件について、資本多数決を徹底し、定款で定めることができる内容を限定したものと解するのが相当であり、会社法の強行法規性に照らすと、定款自治や株主の意思の尊重を理由に、同条が定款12条を許容しているとみるべきではなく、Yの主張は採用することができない。

 ⑷ 以上のとおりであるから、株主総会の決議の定足数につき頭数要件を設けている定款12条は、役員の選解任決議に関しては会社法341条に抵触するため、適用されないこととなり、役員の選解任に係る株主総会の決議に関しては同条の定める定足数によることとなる。そして、本件総会決議については、同条の定める定足数を充足することとなることは、前記4(1)のとおりであり、かつ、X及び西助の保有する議決権数によれば、決議要件も充足していることとなるから、本件決議は有効である。

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