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建築業界の皆様へ

2026.06.19

1 総論

 建築業界は、発注者の意向がどうしても強くなりがちであり、多重下請構造の中では元請業者の意向が強くなりがちです。ところが、施工不良や事故が発生した場合、下請業者が責任をとらなければならない場合も発生し得ますので、トラブルを予防するためにも、契約内容を明確化して書面化しておくことが重要です。契約内容の書面化に当たっては、建設業法などの規制にも目を配る必要があります。
 また、公共工事の場合には、談合や贈賄にも注意する必要がありますので、日頃から研修などを行い、企業全体として倫理教育に取り組む必要性があるともいえます。
 業界としては、売上が重視されやすい傾向も見受けられ、「業界慣習」が存在する場合もありますが、近年は業界慣習が世間的に容認されない事態も多々発生しておりますので、法律のみならず企業倫理・コンプライアンスの観点から、どのような経営に取り組むか、ということが求められている業界なのではないかと考えます。
 本コラムでは、契約書の作成の重要性と、紛争発生時における対応を簡潔にまとめました。

2 「口約束」がトラブルのもと?契約書作成の重要性

 (1) 建設業法が求める契約書
 建築業界で紛争が生じた後、当事者の方から「図面通りにやったはずなのに...」「施主の言った通りに対応したのに...」といった声を聞くことがあります。
 しかし、紛争になった後では"言った・言わない"は通用しません。
 特に建設工事の請負契約では、建設業法によって契約内容をきちんと書面化する義務があります。
 建設業法第19条では、建設工事の請負契約の当事者が工事請負契約を締結する際に、契約の内容を記載した書面(いわゆる下請契約書)を書面で作成して相互に交付しなければならないとされています。
 最低限、以下の項目は記載しなければなりません。
 ① 工事内容
 ② 請負代金の額
 ③ 工事着手の時期及び工事完成の時期
 ④ 工事を施工しない日又は時間帯の定めをするときは、その内容
 ⑤ 請負代金の全部又は一部の前金払又は出来形部分に対する支払の定めをするときは、その支払の時期及び方法

 ⑥ 当事者の一方から設計変更又は工事着手の延期若しくは工事の全部若しくは一部の中止の申出があつた場合における工期の変更、請負代金の額の変更又は損害の負担及びそれらの額の算定方法に関する定め
 ⑦ 天災その他不可抗力による工期の変更又は損害の負担及びその額の算定方法に関する定め
 ⑧ 価格等の変動又は変更に基づく工事内容の変更又は請負代金の額の変更及びその額の算定方法に関する定め
 ⑨ 工事の施工により第三者が損害を受けた場合における賠償金の負担に関する定め
 ⑩ 注文者が工事に使用する資材を提供し、又は建設機械その他の機械を貸与するときは、その内容及び方法に関する定め
 ⑪ 注文者が工事の全部又は一部の完成を確認するための検査の時期及び方法並びに引渡しの時期
 ⑫ 工事完成後における請負代金の支払の時期及び方法
 ⑬ 工事の目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない場合におけるその不適合を担保すべき責任又は当該責任の履行に関して講ずべき保証保険契約の締結その他の措置に関する定めをするときは、その内容
 ⑭ 各当事者の履行の遅滞その他債務の不履行の場合における遅延利息、違約金その他の損害金
 ⑮ 契約に関する紛争の解決方法  

   また、注文者との契約についても、注文者に対しても書面交付が求められるケースがあります(特に住宅関連で消費者相手の場合は建築士法・宅建業法・消費者契約法とも関連します)。

   よくある紛争として、例えば以下のような流れがあり得ますのでご注意ください。
・追加工事を「口頭でOKもらったからやった」
 → 代金請求で揉める
・工期の変更が曖昧
 → 損害賠償や遅延責任で対立
・下請に丸投げで契約書不作成
 → 建設業法違反のリスク

 (2) 下請法の規制とは?
 建設業界では、建設業法と下請代金支払遅延等防止法(下請法)の両方の適用を受けるケースがあり、契約書を交わさず業務を進めてしまうと、監督官庁による指導・処分の対象になるリスクがあります。
 下請法が適用になるかどうかは、親事業者と下請業者それぞれの資本金の額によって決まりますので、次の類型に該当するかどうかをご確認ください(工事請負の場合を前提としていますので、情報成果物の作成や役務の提供を目的とする契約の場合は金額が異なります)。
・親事業者の資本金が3億円超のケース
 →下請業者の資本金が3億円以下であれば下請法の対象です
・親事業者の資本金が1000万円超3億円以下のケース
 →下請業者の資本金が1000万円以下であれば下請法の対象です
・親事業者の資本金が1000万円以下のケース
 →下請法の対象となりません。
・親事業者の資本金の額が下請業者より少ないケース
 →下請法の対象となりません。
 下請法の対象となる場合、親事業者には以下の義務が課されます。「いつも頼んでる業者だから口頭で済ませている」「とりあえず発注書で動いてもらってる」という場合に下請法違反になり得ますので、ご注意ください。
 下請法の適用がある場合には、以下の義務が発生します。
 ① 書面の交付・作成保存義務(発注書や契約書)
 ② 発注時に取引条件を明確に書面で示す必要あり(書面 or 電子交付)
 ③ 支払遅延・減額の禁止
 ④ 不当な返品・やり直し・買いたたきの禁止
 ⑤ 下請代金の支払期限:原則60日以内
 ⑥ 検査の遅延や保管費用の転嫁の禁止
 ⑦ 取引に付随して物品購入・役務利用の強制の禁止
 定期的に依頼する取引業者がある場合には、取引基本契約書を作成し、その契約書において法律違反を回避し、日常の取引においては発注書・請書といった形で取引を進めるということが1つの考え方になりますので、ご検討ください。

3 施工不良の疑いが起きたら

 建築後の建物について、注文主から修繕を求められることは少なくありません。修繕を求められた内容が「施工不良」なのか「経年劣化」なのかによって、施工業者としての対応は変わってくることになるだろうと考えます。
 施工不良とは、かつて「瑕疵」と表現されたこともある問題ですが、現行民法においては「瑕疵担保責任」ではなく「契約不適合責任」となっております(民法562条)。
 契約不適合責任とは、契約に適合しているかどうかが責任発生の基準になりますから、「施工不良」は、請負契約上定められた内容と相反する場合、あるいは求められた水準に満たない場合に責任が発生し得ますが、どうしても発生してしまう「経年劣化」であれば、施工業者の責任はないだろうということになります。
 したがいまして、施工不良の問題が生じた場合にも、注文主が「施工不良」だと思っていても、そうではない場合もあるわけであって、契約上どのように定められていたかが重要な判断基準となります。そのような意味で契約書を正確に作成しておくことは将来的な紛争予防にも資することです。
 とはいえ、契約書で施工内容の全てを記載し尽くすことが難しい場合もあり、その場合には、建築当時の一般的な施工水準に比較して、実際の施工が水準に達しているかどうかを基準として施工不良の有無が判断されます。かような観点からは、施工業者としても世間的に見る施工水準を把握しておく必要があると言えるでしょう。
 また、注文主から修繕希望の連絡を受けて、それがどのような問題かを確認することなく応急処置的に修繕してしまうということもありますが、その場合には施工不良が後日悪化してしまった場合、当初の施工状態が分からなくなるという事態も発生し得ますから、施工不良の疑いが生じた場合には、何が起きているのかを確認し、修繕前に写真などで現状を記録し、その上で施工不良なのか経年劣化なのかを検討しつつ修繕対応するという方向性がよろしいのではないかと考えます。
 以上の次第で、施工後に施工不良と疑うべき事象が生じた場合、契約書などで合意された内容との齟齬を確認し、写真などで証拠化した上で施工不良なのか経年劣化なのかを判断した方がよいとは考えますが、施工不良に該当しないからといって修繕対応しないというのも顧客に対する不誠実な対応であるといえ、誠実な説明と誠実な対応を行うことが重要であることは言うまでもありません。

4 本コラムに関連した過去の対応事例

・ 取引基本契約書の確認
・ 建設業法への適合性確認
・ 下請法の抵触の有無
・ 施工不良による損害賠償への対応
・ 施工不良クレームと顧客対応
・ 請負契約の途中解約と損害賠償請求

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