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弁護士 園 高明

2016年01月01日

自動車の損害賠償 =最近の裁判例から=

(丸の内中央法律事務所報No.28, 2016.1.1)

<はじめに>

 従来から、交通事故の加害者になった場合は、加害者としての賠償金の支払いに関しては任意保険会社の費用で弁護士に委任できましたが、最近は、被害にあった場合の弁護士費用を補償する自動車保険が多いため、自動車の物損に関する裁判が増えています。

 物損については、これまでも何度かご説明してきましたが、ここでは、自動車の損害賠償に関する最近の裁判例をご紹介しましょう。

<修理費>

 損害賠償として認められる相当な修理費とは、損傷箇所について、社会一般に行われている修理方法についての相当な部品代・工賃等を指します。

1 修理費の時間単価の相当性

 修理費の適正水準としての時間当たりの工賃について、大型自動車の車体整備、架装を専業とする業者が組織した全国大型自動車整備工場経営協議会の方式は全国で広く用いられているとして、1時間当たりの工賃を7000円と認めています(東京高判平2032日 自保ジャーナル13282頁)。普通乗用自動車に関しても、損害保険各社が参画した自研センター方式により車種、損傷部位により部品代及び工賃(指数と対応単価により算出))の合計額が修理工場と協定されており、単価が争点となる事案はあまり多くないと思われます。

 高級外車にはこのような指数がないことから、正規ディーラーなどの修理費用が明らかに不相当でない限りそのまま認められることが多いようです。

 なお、修理費には消費税額が含まれ、仮に修理されないまま被害者が売却しても消費税相当額は、損害賠償の対象となります(東京地判平18327日交通民集392370頁)。修理代の消費税は修理代金そのものであり、損傷した箇所を元に戻すための費用ですからこの部分も認められます。

2 修理方法の相当性

 修理方法として、板金による修理が不可能であるとして、パネル交換の必要性、あるいは、ボディ本体の交換の必要性が争われることがあります。損傷が車体の枢要部分に及んでいるような場合には部品、パネルの交換費用を認められますが、損傷部位が外部パネルの一部にとどまる場合には、部分補修が可能として交換の必要性を否定しています。特殊なアルミボディ、あるいは、近時高級スポーツカーで一般化しつつあるカーボンボディについても、そのことを理由とするだけでは、ボディ交換や部品交換の必要性は認められていません。

(1)「アルファロメオTZ1」(1964年製、100台余り生産され、鋼管フレーム構造で、クラシックカーとしての人気は極めて高い。)について、原告の主張するアルミボディ全体の取り替え、全塗装の必要性を否定し、板金修理、部分塗装が相当として903万円余の請求に対し、903000円を修理費の損害としました(大阪地判平20327日 自保ジャーナル175321頁)。

(2)「ロータスエキシージS」(アルミモノコックの英国製スポーツカーで平成192月登録、事故日平成205月)について、車体本体のフレーム交換は不要で500万円余のフレーム本体の交換費用の請求を認めず、板金による修理が可能として、66万円余の修理費を損害としました(名古屋地判平23617日 自保ジャーナル1857141頁)。

(3)「ランボルギーニディアブロGT」(ボディにカーボンファイバーが用いられたイタリアの最高級スポーツカー)のフェンダー部分の割損について、実施されたシートマットによる積層作業による修理を応急的な作業に過ぎず、スポーツカーでサスペンションが固く車体にかかる衝撃により、高い確率で亀裂部が拡大するので、亀裂が生じた部品を取り換える必要があるとして修理費306万円余を請求したのに対し、アウディージャパン(株)ランボルギーニ事業部では、表面上のダメージでは積層作業をし、構造上に問題あるダメージでは、ひび割れたパーツを取り換える作業を販売店に推奨していること、フロントフェンダーの中央部の損傷の亀裂は大きくないことから構造上に問題あるダメージとはいい難く、積層作業で足りるとして部品交換による修理費を認めませんでした(大阪地判平25614 自保ジャーナル1910164頁)。

3 全塗装の必要性

 現在の補修塗装は、新車時になされる焼付塗装によるものと質的にも異ならないとされ、塗装の違いも専門家でもなければ判別できない程度のものであり、全部を塗装しなければならない合理的な理由がないかぎり部分塗装で足りると考えられます。

 現在の塗装方法には、傷が小さく傷の周辺部だけ塗装するスポット塗装、パネルの継ぎ目までの区画-たとえばドア・フロントフェンダーパネル等-の一面を塗装するブロック塗装、車両全体を塗装する全塗装がありますが、自損事故などでも部分塗装が一般的であり、加害者がいるからといって相当な補修方法が変わるわけではありません。

 前項(1)のアルファロメオTZ1のような希少で著名なクラシックカーでも全塗装の必要性は認められていません。また、近時、キャンディ・フレーク塗装が施された普通貨物自動車の左後輪後方の車体側面に長さ十数センチメートルの擦過痕が生じた場合に全塗装の必要性を認めた東京地裁判決を変更し、キャンディ塗装の補修も原則部分塗装で行うものとされ、キャンディ塗装の補修塗装技術も一般的に多用されている3コートパール塗装に類似するものであるとし、特別な色で色合わせが困難であるとしても、面が切り替われば見え方が変わることを踏まえれば、隣接したパネルには、広範囲のぼかし塗装の範囲を取ることで最大にみても、同一面である左側面の全範囲を塗装することで足りるとされました(東京高判平26119日 自保ジャーナル1913148頁)。

<物の滅失と時価の賠償>

 物自体が滅失し、あるいは損壊した物を修理することが不可能な場合にはそのの価格を賠償することになります。修理が不可能であれば、その物の時価額を賠償するほかありませんから、その場合には、時価額をどのように算定するかの問題になります。現代の自動車では、水没、火災による損傷以外、衝突による損傷は技術的に修理は不可能ではないと思われますが、多額の費用を要し、時価額を超える場合には、時価額の限度で賠償すべきであるという考えが一般的です。

 自動車のような中古車市場価格がある場合には、同種・同等の車両を中古車市場で調達できれば、被害者の原状回復ははかられることになり、それ以上の損害は相当因果関係がないと判断されるのです。もっとも、同種同等の車両を中古車市場で取得するためには、買替するための諸費用が必要となりますから、これらの費用も一定の範囲で損害賠償の対象となります。車両時価額に買替諸費用を加えた額と修理費を比べて、修理すべきか、買い替えるかを決めることになります。

 ところで、近時、クラシックカー、あるいはフェラーリやポルシェのような有名スポーツカーの限定車などは、価格が高騰しており、再度市場で同じ自動車を購入しようとすると、過去に購入した価格よりかなり高額になっているケースもあります。このような場合にも、事故にあった時の市場価格を賠償すべきであり、過去の購入価格を賠償すれば足りるというわけではありません。

 3000台のみが生産された1998年式ハーレーダビッドソン(誕生95周年記念限定モデル)について、原告が購入した価格以上の価格賠償を認めても、原告所有の客観的価値を回復させるという点で原状回復以上の利益を賠償したことにはならないとして、購入価格の100万円ではなく、事故時の時価額230万円の損害を認めています(大阪地判平25830 自保ジャーナル1912119頁)。

<評価損>   

 現在の裁判例は、高級外車でその事故時の価格が比較的高額なもの、国産車でも、比較的新しく走行距離がさほど多くないもの等については、損傷の部位、程度を考慮しながら、修理費の1050%の範囲で評価損(事故による自動車価格の低下による損害)を認めています。この比率は、高級車であるほど、新車に近いほど、損傷が構造に及ぼした程度が高いほど、高くなる傾向にあると考えられます。(1)の裁判例は、修理によっても技術的限界によって回復しない部分の損害(技術的減価による評価損)を念頭に損害を算定している点及びスポーツカーの特性まで考えて評価損を認めている点でスポーツカーオーナーには注目すべき判決です。

 また、(3)の裁判例は、本来なら最高級のスポーツカーで時価額に迫る修理費を要する損傷を受けていることから、30%程度の評価損が認められるのが通常ですが、このような評価損を認めると修理費と合計して事故時の時価額を上回るため、時価額の範囲内で評価損を認めたものと考えられます。

(1)「ポルシェ911カレラ」(登録後4か月、購入価格諸費用込1599万円余)について、リアサイドメンバー、リアクロスメンバーに損傷が及んでおり、技術上の限界から機能上の損傷が完全には回復していない可能性を否定できない、修理作業の影響による破壊現象、電子部品への障害の可能性もあり、サーキット走行などの高速走行を避けるようポルシェの取扱業者から言われていること、修理後の試乗で直進性が甘くなりオーバーステアの発生等の問題が生じていること、純粋スポーツカーに関するドライビングフィーリングへの共感が高価格の源泉であるところ、事故によりこれらが失われ長期品質保証から外れたことなどから、修理費222万円の68%にあたる150万円の評価損を認めた(大阪高判平20130日 判例時報204930頁)

(2) 「ニッサンGTR」(購入価格834万円余、初度登録後3か月、走行距離945km)について、トランク開口部とリアフェンダーとの繋ぎ目のシーリング材の形状に差があるなど事故前の状態には戻らなかったことから、修理費の50%の評価損を認めた(東京地判平231125日 自保ジャーナル1864165頁)

(3) 「ポルシェ911ターボカブリオレ」(購入価格2270万円、事故時価格1675万円、登録後18か月、走行距離約3万km)について、1504万円の修理費の1150万円の評価損を認めた(大阪高判平2626日 自保ジャーナル1915127頁)

<おわりに>

 自動車の物損に関しては、本誌第1(200311)に「自動車の損傷に伴う賠償」を、第10(200711)に「修理できても全損?」を掲載しておりますのでご参照ください


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