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弁護士 山本 昌平

2013年08月01日

法科大学院を巡る議論についての雑感(その2)

(丸の内中央法律事務所報No.23, 2013.8.1)

□ 皆様、暑中お見舞い申し上げます。今夏は、百年に一度の猛暑といわれておりますが、如何お過ごしでいらっしゃいますでしょうか。

 前号(丸の内中央法律事務所報No.22)は、法科大学院改革に関し感想を述べさせて頂きましたが、平成25年6月26日付にて政府の法曹養成検討会議において「法曹養成制度検討会議取りまとめ」(以下「取りまとめ」といいます)が公表されましたので、前号に引き続き、法科大学院の改革・今後について考えてみたいと思います。なお、この「取りまとめ」を踏まえ、今後は、施策を実施し、検討課題については省庁横断的にフォローアップされ検討が進められる予定となっております。

□ 「法曹養成制度検討会議取りまとめ」

 この「取りまとめ」では、法科大学院について、まず、「法科大学院は、法曹養成のための専門職大学院であり、その修了者に司法試験受験資格を与える制度としていることに鑑み、修了者のうち相当程度(例えば約7~8割)が司法試験に合格できるよう、充実した教育を行うことが求められる。」「司法試験合格の見通しを制度的に高めて、資質のある多くの者が法科大学院を志願するようになる観点からも、上記のとおり、修了者のうち相当程度の者が司法試験に合格できる状態を目指すことが重要である。」として、法科大学院の専門職大学院として役割、意義を確認し、修了者のうち相当程度が司法試験に合格できることが重要としております。このこと自体は、法科大学院制度を創設した当時の理念のとおりであり、学生を受け入れはじめた平成16年当初から変わっておりません。法科大学院が専門職大学院として法律のプロフェッションを養成するための教育機関ですから、当然の理念といえます。

□ 法科大学院が抱える課題について

 そして、「取りまとめ」では、引き続いて、現在の法科大学院が抱える問題として、以下のとおり指摘しております。「個々の法科大学院についてみると、法科大学院間のばらつきが大きく、充実した教育を行っている法科大学院がある一方で、教育状況に課題がある法科大学院もあり、このような課題のある法科大学院については、教育の質を向上させる必要があるとともに、定員削減及び統廃合などの組織見直しを進める必要がある。」「今後の法科大学院の統廃合や定員の在り方については、まずは、法科大学院が全体としてこれまで司法試験合格者を相当程度輩出してきた事実を踏まえ検討すべきである。」「現在の教育力に比して定員が過大な法科大学院が相当数あり、また、全体としても定員が過大になっていることから、入学定員については、現在の入学定員と実入学者数との差を縮小していくようにするなどの削減方策を検討・実施し、法科大学院として行う教育上適正な規模となるようにすべきである。その上で、その後は、法曹有資格者の活動領域の拡大状況、法曹に対する需要、司法試験合格者数の推移等を見つつ、定員の見直しを行うべきである。」と指摘しております。法科大学院制度が導入された当初は、各法科大学院ともそれぞれの教育理念や養成すべき法曹像を高らかに謳いスタートしました。私は、このこと自体に特段の問題があったとは思っておりません。ただ、設立当初は、それまでの受験技術優先、司法試験という「点」から「プロセス」重視へという理念が強調され過ぎたきらいがあり、専門職大学院たる法科大学院の最も重要な目標のひとつが司法試験合格であるということが、ともすれば重視されてこなかったのでないかと思います。この点で法科大学院関係者と、学生・受験生との間に、制度に対する期待や役割に対しミスマッチがあったのではないかと思います。その一例として例えば当初は答案の書き方を指導するゼミ等についても批判的に捉えられておりました。しかし、法的な文章を作成する能力は法曹にとって最も重要な能力のひとつで、その能力を身に着けるためには、ある程度トレーニングが必要なのであって、学生がそのための対策をとることは、実務家を志す立場からは極めて自然なことといえます。さらに、法科大学院が専門職大学院として、司法試験に合格し法曹を輩出することを重要な目標のひとつとする以上、それにふさわしい教育が求められることは当然であり、一定程度のレベルを維持するためにも、統廃合や定員の在り方について、「教育上適正な規模」が求められるのも異論はないでしょう。

□ 改革の第2フェーズへ

 法科大学院という新しい法曹養成制度が構築され多くの国民が期待を寄せ、法科大学院関係者がその期待に応えるべく現実との狭間で苦しんできた10年間の経験を糧に、これまでの結果や実態も踏まえた抜本的な改革がスタートする、いわば第2フェーズの入り口に立ったといえると思います。私は、法科大学院出身の若手弁護士の「能力」が旧司法試験出身の弁護士の「能力」に比べ喧伝されているように低いということは決してなく、裁判官、検察官、弁護士という実務家に接しつつ、「物事の本質や判断の分岐点を考えながら」(「取りまとめ」より)履修する法科大学院が、今後も法曹養成制度の中核たる機関の役割を果たしていく必要性・重要性は何ら変わらず、むしろ、高まっていくものと思います。その点で、法科大学院を修了せずとも司法試験の受験資格を付与する予備試験は、「経済的事情や既に実社会で十分な経験を積んでいるなどの理由により法科大学院を経由しない者にも法曹資格取得のための適切な途を確保すべき」(「取りまとめ」より)との趣旨で導入されたことを踏まえ検討する必要があると思います。

□ 法的措置も

 そして、この法科大学院の改革は、基本的には法科大学院自らがすべきですが、取りまとめでは、組織見直しが進まない場合は、法的措置も設けるとしております。すなわち、「司法試験受験資格を原則として法科大学院修了者の限定している以上、法科大学院が法曹養成の中核としての使命を果たし、それにふさわしい教育の質を確保する観点から、課題を抱える法科大学院の自主的な組織見直しを加速させるためにも、公的支援の見直しの方策をさらに強化すべきである。その際、財政的支援の見直しのみならず、人的支援の見直しについても同様に実施すべきである。」「こうした施策を講じても一定期間内に組織見直しが進まないときは、課題が深刻で改善の見込みがない法科大学院について、法曹養成のための専門職大学院としての性格に鑑み、組織見直しを促進するため必要な法的措置を設けることとする。法的措置の内容を含めた具体的な制度の在り方については、・・・・2年以内に結論を得るべきである。」としております。取りまとめが、法的措置にまで踏み込んでいるのは、今改革を推し進めなければ、法曹志願者の減少に歯止めがかからず、質・量とも豊かな法曹の養成を目指し、「法の支配」を実現することが困難となってしまうことへの強い危機感のあらわれだと思います。

□ 私は、新たに創設された法科大学院が法曹養成制度として着実に定着するまで、10年程度はかかると思っておりましたが、制度の信頼性を高め安定的に機能させ、改革を一段落させるには、まさに、今が正念場だと思います。このタイミングを逃すことなく、改革を推し進め、法科大学院の制度が我が国のみならず、アジア諸国にとっても新たな模範となるような制度にしていく好機として捉えるべきだと思います。今回の改革は、その好機として捉え直したらどうでしょうか。

 最後までお読み頂きまして、ありがとうございます。時節柄どうぞご自愛下さい。

                                     以 上

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